花粉症、鼻炎、アトピー、喘息など、アレルギーと総称されるこれらの疾患。
アレルギー疾患は現代病とも呼ばれ、年々患者が増加しています。
その理由は一体何でしょうか。
衛生学の分野においては、戦後より生活環境が整ってきて「清潔」が重要視されるようになり、感染の機会が減ったことが一つの原因であるとする「衛生仮説」があります。
今回は、そもそもアレルギーとは何かということから、アレルギーに関する最新の学説を紹介していきます。
目次
先進国で増加するアレルギー疾患
アレルギーというと、花粉症・アトピー・喘息・鼻炎など、症状は多岐にわたります。
原因がはっきりしているものもありますが、わからないものがほとんどです。
アレルギー患者数統計情報
厚生労働省の調査では、現在日本では約6,000万人が何らかのアレルギー疾患を有していて、その数は2人に1人といわれています。
また、先進諸国でも同じようにアレルギー疾患の患者が増えていることが問題になっています。
特にスギ花粉症に悩まされる方が近年爆発的に増加していますが、こちらの症状は「アレルギー性鼻炎」に該当し、過去10年間の有病率の増加が顕著です。
花粉症患者が近年急激に増加している原因は、
- 戦後の産業革命に伴う大量のスギ植林から開花までの30年を経て花粉量が最高潮
- 大気汚染・他のアレルギー(ハウスダストやダニ)に花粉症が誘発される
こういったことがあげられます。
もっと詳しく知りたい方はこちらの記事もご参考ください。
喘息患者も特に小児において増えていて、まさに現代病と例えられるほど問題になっているのです。
国の取り組み
この状況への対策として、昨年12月2日に厚生労働省によって、
「アトピー性皮膚炎や花粉症などアレルギー疾患対策推進に向けた初の基本指針案」
がまとめられました。
その目的は、「患者が安心して暮らせる社会を目指し、誰もが適切な治療を受けられる医療体制整備や正しい情報提供、相談支援の仕組み作りに取り組む」というもの。
アレルギーの治療に関しては、現在は内科や皮膚科で診療を受け付けており、アレルギー専門医等も偏在しています。
でも、地域によって治療の質に差が出てしまっていたり、正しい情報が伝わらずに症状が悪化してしまっているケースが問題となっています。
そこで、国をあげての取り組みとして、
- 国立成育医療研究センター・国立病院機構相模原病院など全国的な拠点病院と各地域の拠点病院を整備する
- 地域のかかりつけ医との連携協力体制を整備する
- アレルギー疾患を持つ子どもがほかの子どもと分け隔てなく学校生活を送るための教育
- 災害時のアレルギー食の確保と提供、医師や薬剤師、看護師らの知識や技能の向上
こういった内容を盛り込むことになっています。
実際に事業化するのは2018年度からを予定しているとのことで、引き続き議論が進んでいるところです。
まずは、日本のアレルギー疾患への取り組みとして最近動きがあったことからお知らせいたしましたが、
そもそもアレルギーとは何かということに続きます。
そもそもアレルギーとは
アレルギーとは、特定のものに過敏に反応する状態で、体の免疫反応のことをさします。
免疫反応とは、外から体の中に入ってくるものに対して体を守る防衛機能のことです。
たとえば、
- くしゃみ
- 咳
- 鼻水
- 熱
- 涙
これらは日常でよくある反応ですが、全部、体内の悪いものを外に出そうとする働きです。
悲しいときに涙が出るのは、ある意味正解なものの、今回の意味では除外ですが。
免疫反応には、もともと体に備わっている自然免疫と、外部の刺激を受けて初めてできる獲得免疫の2種類あります。
このうち、獲得免疫の中のIgE抗体というのが、アレルギー疾患に関係してくる抗体で、これが、細菌やウイルスなどのいわゆる「悪玉」でなく、花粉やダニ・ハウスダスト・食物たんぱくといった「善玉」に反応してできてしまうという性質を持ちます。
少量ならば反応も小さく済むのですが、近年特に問題になっているスギ花粉のように、体内に入る量が急激に増えると、IgEが「これは異物だ!」と敏感に反応してたくさん作られてしまいます。
アレルギー体質の人はこのIgEが作られやすい体質というわけで、遺伝的な要因に左右されるケースが多いです。
ではなぜこんなに敏感に反応するようになってしまったのか?
アレルギーは免疫反応ということなので、では単純に免疫力を強くすれば改善できるのではないか?
そんな疑問もあるかと思いますので、これらを順に説明していきます。
アレルギー疾患が増えた理由
アレルギー研究は世界中で進められており、さまざまな仮説が唱えられています。
しかし、いまだメカニズムが解明されていないものも多く、それまで信じられていた学説が昨年夏に発表された研究結果から、根本から崩れるといった事態にもなっています。
今回取り上げるのは、アレルギー関連分野の研究者達が議論のベースにしている衛生仮説。
衛生仮説とは
衛生仮説とは、アレルギー疾患が近年先進国で増えている理由を疫学調査などのエビデンスとともに唱えた仮説です。
この仮説は1991年と2000年に行われた調査結果によるもので、どんな内容かというと、
乳幼児期までの感染や非衛生的環境が、その後のアレルギー疾患の発症を 低下させるという仮説です。
昔と比べて近代は衛生環境がよくなって人の生活はとても清潔になりました。
細かく例えると、公衆の洗面所にある手洗い場では、共用タオルを設置することはなくなり、紙ナプキンか風圧による乾燥機が設けられるほどですよね。
また、そもそもこの「手洗い」。
帰宅したら「手洗いうがい」は徹底しましょうと、自分も習慣化していますし、当然子供にもそう教えますよね。
手洗い文化は、医療現場における医療従事者の手洗いが産褥熱の発症の原因であることを証明した研究が発端でした。
その後、医療現場では神経質にごしごしと洗いすぎて、逆に手荒れがひどくなり傷口から感染を引き起こすという新手の問題が生まれてしまい、何事も「ほどほど」ということなのですが…
話は戻って。
この手洗い・うがいが習慣文化になるほど、私達の生活は菌を遠ざけることが当たり前で「清潔」です。
清潔な環境下では感染症が減りました。
感染源になる可能性がある菌を遠ざけるわけですから。
これはVS感染症という点では大勝利というわけでした。
一方で、菌に触れる機会が減ると体内の免疫系が鍛えられません。
すると体はアレルゲンに過剰反応しやすくなり、アレルギーの発症が多くなるという状態になります。
これが衛生仮説で、現在世界でこれがワールドスタンダードの仮説になっています。
この衛生仮説を裏付ける研究は世界中でたくさんあり、今日ではそれをベースとして、ではアレルゲンに過剰に反応してしまうというメカニズムは一体なんなのか?!という部分に焦点が当てられています。
昨年まで信じられていたアレルゲンのメカニズム(Th1、Th2説)
ちょっと調べると出てくるアレルギーのメカニズムで多いのが「Th1、Th2」によって説明されているものです。
それがこちら。
免疫システムには、司令塔の役目をするTh1(主として感染に働くT細胞)、Th2(主としてアレルギーに働くT細胞)、Treg(主として免疫調節に働くT細胞)が関わっており、これらのT細胞は互いにバランスをとりながら免疫をコントロールしています。しかし、環境や生活習慣によって、Th2が過剰になったりTreg が弱まったりすると、免疫バランスがくずれ、本来は無害な物なのにアレルギーが発症してしまうのです。
出典:カルピス由来健康情報室
Th1、Th2で説明される仮説は衛生仮説とともに論じられることが多いです。
でも、これでは説明がつかない調査結果も後々出てきて、全てのつじつまが合う学説は何だ?!と、模索されているのがまさに今。
そんな中で昨年9月に発表された研究が最新理論を提唱しました。
アレルギーの原因にTh1、Th2は関係ない!?
アレルギーのメカニズムについては衛生仮説後にTh1、Th2説が出て、その後皮膚からの感作がアレルギー症状になる最初の原因として認識されるようになりました。
その後、2009年に新たに出された「二重抗原曝露説」などを経て、2016年9月に『Science』に出た論文がそのメカニズムを細かく説明したものでした。
簡単にいうと、皮膚への接触がアレルギーが起こるか否かの最初のステップになるということです。
そこでキーになるのがこの論文で新たに発見されたA20と呼ばれる分子です。
この分子は、皮膚を保護する保湿剤のような役目を持っていて、これが出てくることでアレルギー反応を防いでくれます。
A20は病原菌の中に含まれるエンドトキシンの刺激を受けて、皮膚の上(気道の上皮細胞上)に出てきます。
出典:Bio&Anthoropos「いま、アレルギーのメカニズムが大きく塗り変わろうとしています」(斎藤博久インタビュー①)」
エンドトキシンは、ホコリの中にたくさん含まれていることが知られていて、いわゆる衛生環境が良くない場所のほうが多いことで知られています。
つまり、エンドトキシンの多い環境のほうがアレルギーになりにくいということ。
この理論は、「Th1/Th2セオリー」を一新するものとして注目されています。
参考:Journal of Allergy & Clinical Immunology (11.248) Vol. 134, Issue 4, October 2014.
アレルギー予防に大事なのは「保湿」
皮膚がアレルギーの原因の第1歩ということで、専門家はアレルギー予防には「保湿」が重要といっています。
最新理論で皮膚を守る働きをするのが「A20」という分子であることがわかりました。
そしてA20と似た肌を守る働きをするのが皮脂。
昔と違って今は洗浄力の高い石鹸や洗剤が多くなり、ごしごしとよく洗うことで、本来は皮膚を守る働きをする皮脂がとれすぎてしまいます。
入浴後に肌がカサカサするのは皮脂がとれてしまっているからです。
そこで大事なのが入浴後の保湿。
赤ちゃんのケアをする際、女性の美容目的でも、お風呂あがりには「クリームで保湿しましょう」といいますよね。
十分に保湿することで、皮脂がとれすぎてしまった皮膚を保護してくれるのです。
アレルギーでお困りの方、年齢とともに免疫力の低下からアレルギーかなと思われる症状が出ている方は、まず皮膚の保湿から意識してみてはいかがでしょうか。
なお、食物アレルギーに関しては、こちらの学説では説明がつかないのでまた別のメカニズムになるとご理解ください。
追記:ステロイドに関する誤った印象
アレルギーに関する症状などで、病院で処方される薬剤の代表は「ステロイド剤」です。
よく知られていると思いますが、あまり良いイメージをお持ちの方はいないと思います。
強い作用があるとか、免疫作用を弱くするとか…
でもそれは誤解です。
皮膚のアレルギー症状、特にアトピー治療に関してはステロイド剤が最も有効とされています。
どの薬剤にもある副作用について、ある時メディアが大きく騒ぎ立ててしまったことがステロイドへの誤解を生んでしまいました。
その報道を期に、ステロイド治療で確実に治療できる患者さんたちが、漢方薬や自然治療などといった治療法に一気に切り替えてしまったため、かえって患者が増えてしまいました。
ステロイドは安全に使用できるのにです。
薬剤については、いつだってメディアに左右されがちですが、こちらの記事をもってステロイドの印象は誤解がありますよということを最後に付け加えました。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
アレルギーについての最新学説、すこしご理解いただけましたか?
保湿が大事だということもお伝えすることができたと思います。
昔のように不衛生な環境でなくなった今、清潔にすることで感染症を防ぐことはできても、逆にそれがアレルギーの原因になりかねないということですね。
現代病と呼ばれるものは全て、現代ならではの生活環境が因子になってくる場合がほとんどです。
アレルギーに関しては、このたび新たな理論が出たことで、有効な予防法への第1歩になったのではないでしょうか。
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