日本を含む先進諸国で患者が増えているアトピー。
正確にはアトピー性皮膚炎とよび、アレルギー疾患の1つです。
アトピー性皮膚炎は、治療薬の1つであるステロイドへの誤解や、症状の見た目から「うつるのか?!」といった誤解があります。
また、乳酸菌などの民間療法に注目が集まっていたりもします。
アトピー性皮膚炎はうつりません。
乳酸菌はアトピー性皮膚炎の症状を改善します。
今回は、それらのアトピー性皮膚炎の科学的根拠ある真実だけをまとめて、主な原因や治療法などを紹介していきます。
目次
アトピー性皮膚炎の最新統計
アトピー性皮膚炎の患者さんは日本国内はもちろん、先進諸国にもたくさんいます。
後ほどご説明しますが、アトピー性皮膚炎は先進国ならではの衛生環境が生んだ「現代病」ともいえます。
患者の数
世界中にアトピー性皮膚炎の患者さんはたくさんいます。
世界の56カ国で実施されたアンケート調査によると、
- 有症率は概してオセアニアや北欧では高く、アジアや東欧では低かった
- 中国からアジアを経て東地中海地方から東欧に至るまで有症率の低い地域が帯状に存在
- 有症率が高い国は、日本を含む工業先進国
- 日本は6~7歳では有症率が2位、13~14歳では9位
このような結果となりました。
また、日本の患者数は、福岡で調査したデータによると、
- 6~7歳:患者全体の16.9%
- 13~14歳:患者全体の10.5%
と報告がありました。
全国調査の結果
また全国調査の結果はこちら。
まずは子どもから。
平成29年度のアトピー性皮膚炎の者の割合は全体の、
- 幼稚園:2.09%
- 小学校:3.26%
- 中学校:2.66%
- 高等学校:2.27%
となっています。
そして成人の患者人数は、2000~2008年度厚生労働科学研究によって報告がありました。
- 20代:10.2%
- 30代:8.3%
- 40代:4.1%
- 50代+60代:2.5%
となっています。
性別では男性が5.4%、女性が8.4%と女性が高く、特に20代の女性で高い傾向が見られました。
患者の不安
アトピー性皮膚炎は、治療により症状をコントロールすれば、ふつうの生活ができるようになる病気です。
だから、その症状が患者さんに及ぼす影響とか、それによる社会的な経済損失などにはあまり注目が集まっていません。
問題の症状はかゆみ。
ひどい痒みが、患者さんのQOLを低くし、湿疹が出ている箇所の見た目の悪さがメンタル的なストレスになり、それが労働生産性を低くしてしまうのです。
また、治療薬へのニセ情報から生まれた不信感から、治療がスムーズに進まないこともあります。
2014年の厚生労働省の患者調査・2016年のサノフィによる患者調査では、こんなことが明らかになりました。
- 患者の64%が20歳以上
- 患者のQOL(生活の質)は低い
- 患者の約6割はステロイドに不信感がある
- 治療薬の総合満足度は「満足以上」がたった30%
- 「症状の改善効果」の満足度は53.8%
- 「医師とのコミュニケーション」の満足度は39.7%
- 「診察室で医師または自分が話している時間」は3分以下が54.7%
- 「診察室で医師または自分が話している時間」は、平均4.2分
- 「日常生活で困っている事がないか確認してくれる」医師は16.5%
- 「症状による精神的な悩み」を伝えられている割合は平均約38%
医学的にも、専門のガイドラインにも、「慢性疾患だが、正しい治療で普通に暮らせる」そう書いてあるので、命にかかわるような深刻さはないように感じてしまいますが、実は患者さんたちは、ずっと続く症状によって辛かったり困っていたり、精神的な悩みを抱えて生活しているのです。
ちなみに、100%きちんと自分の症状や悩みを医師に伝えられていると回答した患者はたったの12.8%でした。
なぜ医師に伝えられないのでしょう。
ほとんどの患者さんは、
- 医師に話すほどのことでもない
- 医師に話したところで解決しない
- 医師が忙しそうにしているので、時間をとってもらうのは申し訳ない
そんなふうな回答があり、遠慮や半ば諦めのような様子がうかがえました。
事実、当たり前ではありますが、患者さんのQOL(生活の質)は低く、治療にも満足しきれていないケースが多いです。
そんな悩みを、4人に1人がかかりつけの医師にちゃんと伝えることができない状況で、ひとり悩み生活しているのです。
また、サノフィ患者調査では、患者さんはこんな悩みを回答していました。
- いつ症状が出るかわからないのでビクビクする
- アトピー性皮膚炎が完治しないことへの不安がある
- 見た目が気になる
- 人と接するのがおっくうになる
- 自分に自信が持てない
- 恋愛や結婚が出来ないことへの不安
この結果は今後のアトピー性皮膚炎の治療方針を改善するにあたって重要な資料になると思います。
この調査結果を受けて大事なことは、以下の3つになります。
- 社会全体でアトピー性皮膚炎の患者さんの意識を理解すること
- 治療の際は、医師との十分なコミュニケーションをとれる環境を整えること
- 治療を行う過程で、症状へのアプローチだけでなく、患者さんのメンタル面のサポートも行う必要がある
アトピー性皮膚炎の基本と原因について
ここまででお話ししたとおり、アトピー性皮膚炎は患者さんのお困りごとが多く、かかりやすい皮膚病の1つです。
患者さん以外でも、先ほどお話ししたように、社会全体で正しい知識を持ち、患者さんを理解することが重要です。
アトピー性皮膚炎とは湿疹を主な症状とする皮膚病
アトピー性皮膚炎とは、痒みのある湿疹を主な症状とする皮膚病です。
症状は常に出ているわけではなく、良くなったり悪くなったりを繰り返すのが特徴です。
もともとアレルギーを起こしやすい体質の人や、皮膚のバリア機能が弱い人に多く見られる皮膚の炎症を伴う病気です。
なかなか治らない病気ですが、ふつう6か月以上(乳幼児では2カ月以上)続くと慢性です。
痒い湿疹の特徴はこちらです。
- 赤みがある
- じゅくじゅくして引っかくと液体が出てくる
- ささくれだって皮がむける
- 長引くとごわごわ硬くなって盛り上がる
- 左右対称にできることが多い
- おでこ・目のまわり・口のまわり・耳のまわり・首・わき・手足の関節の内側などに出やすい
具体的に皮膚の状態がどのようになっているか、軽くご説明しましょう。
私たちの皮膚は、生きるための体内の器官を外界からの刺激から守るため、また体内の水分が蒸発しないように防ぐいわゆるバリアの役割を担っています。
外界には微生物がたくさんいたり、体の防衛反応である免疫反応を起こす原因となる抗原もたくさんいます。
免疫反応とは、例えば、体内に侵入した病原微生物を外に出そうとする働きで、咳やくしゃみなども免疫反応の1つです。
皮膚は、外界の皮脂膜・その下の角質細胞・角質細胞間脂質などがバリアになっているのです。
アトピー性皮膚炎は、これらの皮膚のバリア機能が弱っている状態というわけです。
こちらの図がとてもわかりやすいのでご覧ください。
左が健康な皮膚、右がアトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚です。
出典:(公財)日本アレルギー協会『よくわかるアトピー性皮膚炎』
健康な皮膚でしたらバリア機能が万全、でもアトピー性皮膚炎の患者さんはバリア機能が不十分なので、いろんな刺激に免疫細胞が反応してしまいます。
その結果、強い痒みが生じる、そんなメカニズムです。
身近に例えると、真夏の日差しが強い日に日焼けをして、その部分がヒリヒリ・治りかけると痒みも出てきたり。
これは日焼けによって皮膚が損傷、バリア機能が低下している状態だからというわけです。
なおこの状態は、極端にいうと、”皮膚が十分にない状態”ともいえる。
なので、皮膚を引っかいたり・こすったりといった物理的な刺激や、汗、石鹸、化粧品、紫外線すら刺激になって症状を悪化させてしまいます。
アトピー性皮膚炎の原因(誘因)
アトピー性皮膚炎の原因は、これとはっきり言えるものがありません。
が、これまでのさまざまな研究で、症状が出るスイッチというか、誘因がわかっています。
- ダニ・ほこり
- 気候
- 食事
- 体質
- ストレス
- ペット
- 細菌感染
- 大気汚染
- 室内環境
このように、たくさんの因子の影響を受けていて、「多因子性の疾患」とも呼ばれています。
くりかえしましょう。
アトピー性皮膚炎は多因子性の病気です。
つまり、原因と思われるものがあっても、それだけ改善すれば治るというわけではありません!
よく言われているのが食事の原因。
アトピー性皮膚炎の患者さんは食物アレルギーも合併している場合があって、治療には食物制限が必要になります。
でも、食物制限でアトピー性皮膚炎が治るわけではありません。
欧米では、ペットが原因であることも多く、ペットを飼っている家庭が多い。
だから、周辺に住んでいるペットを飼っていない方も発症することがあります。
治療にあたって大事なのは、どれか1つの対策に留まらず、食生活・住環境・生活習慣を少しずつ改善していくことが大事なのです。
アトピー性皮膚炎になりやすい人の特徴
アトピー性皮膚炎には、なりやすい人とそうでない人がいます。
- 家族にアトピー性皮膚炎や喘息・花粉症・アレルギー性鼻炎・食物アレルギーなどの人がいる場合
- ご本人がそういう病気をわずらったことがある場合
これらは、アトピー性皮膚炎になりやすい、つまりアレルギーを起こしやすい体質の人と考えられます。
このような体質のことをアトピー素因と呼びます。
また、アトピー素因とはいいませんが、
- 夜型生活の影響
- 食生活と住環境
が、アトピー性皮膚炎発症に関連してることもわかっています。
アトピー性皮膚炎の人が増えたわけ
アトピー性皮膚炎は近年欧米から問題になった病気で、日本も同じように患者が増えてきました。
なぜかというと、その要因の1つが”生活の文明化”。
日本アレルギー協会が発刊したアトピー性皮膚炎に関する冊子には、まとめると4つの生活の文明化が書かれています。
- 食生活の変化
- 高気密な住環境
- 暮らしの電化
- 病原微生物暴露の機会の減少
下記の記事でも書きましたが、昔とちがって人間は衛生状態の良い環境で生きることができるようになりました。
おかげで、防げる感染症をきっちり防げるようになり、死亡率の激減・寿命の延伸につながりました。
一方で、「清潔に」を意識するあまり、病原微生物が体内に入りにくい、つまり病原微生物に対抗する免疫力を体内で作る機会がなくなってしまったのです。
アトピー性皮膚炎とはアレルギー疾患の1つです。
アレルギーとは、特定のものに過敏に反応する状態で、体の免疫反応のことをさします。
免疫反応とは、外から体の中に入ってくるものに対して体を守る防衛機能のことです。
もっとわかりやすくいうと、アレルギー体質は、つまり刺激に対する反応が過敏になる状態。
アレルギーに敏感すぎる
人はもともとアレルギー体質で生まれてきて、1~2歳のころまでにたくさんの病原微生物が体内に入り、免疫を作ることで非アレルギー体質になります。
だから、子供が小さいうちに病気をたくさんするのは自然なことなのです。
ただ今は、子供のうちから「風邪をひかないように」「病気をしないように」やりすぎな予防が流行っていますし正しいとされている。
そのため、子供たちは確かに病気や風邪の頻度が減りましたが、病原微生物の刺激をあまり受けないことから、いつまでもアレルギー体質でいることになるのです。
そして今は住む家の環境も良く、冷暖房が効くよう・防音機能を高くできるよう気密性が高くつくられています。
アレルギー体質の人が非アレルギー体質にならないまま育って、高気密の家で生活していると、その家の中のダニ・カビ・ペットなどの刺激を受け続けることになります。
刺激に対する反応が過敏なアレルギー体質の状態で、そのようなたくさんの刺激に触れると、ますますアレルギーが悪化するといわれています。
また、昔と比べてアレルギー体質になりやすい理由は、人の体質が変わったこともあげられます。
それが、腸内細菌叢の変化。
食事の内容が、脂が多い・塩分が多い・糖分が多い・カロリーが多いといったように欧米化すると、腸内に悪玉菌が増えます。
また、細菌治療に使われる抗生剤も、腸内環境を変える要因です。
抗生剤はいま、使い過ぎによる耐性菌の問題が騒がれています。
また、電気が使えるようになったことで、人間の生活は朝型から夜型になりました。
人の1日のホルモン分泌のリズムは、太陽のリズムと合っているものです。
朝目が覚めて夜眠くなる、これが体内時計と呼ばれるものですね。
体の調子を万全に保つために早寝早起きが大事といわれるのは、本来眠くなる夜の時間に成長ホルモンの分泌が促され、朝は副腎皮質ホルモンを分泌されてホルモンのリズムを整えることが重要だからです。
昔と違って、今は朝日で起きて日が沈むと寝るという生活をしていないので、それぞれが寝起きする時間を管理する必要があります。
睡眠のバランスが悪いと自律神経も乱すため、本来備わっている免疫力も低下させてしまいます。
アトピー性皮膚炎の治療方法
では、アトピー性皮膚炎の治療についてお話ししましょう。
アトピー性皮膚炎の患者さんの治療は、目標が決められています。
それは、アトピー性皮膚炎が完治しない場合もあるからです。
だから、
- 症状はないか、あっても軽く、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない
- 軽い症状は続くが、急激に悪化することはまれで、悪化しても持続しない
患者さんがこのような状態に改善して、さらにこの状態から悪化しないよう維持し、症状を苦にせず、楽に生活できることとされています。
そして治療は3本柱。
- 薬物療法
- スキンケア
- 悪化因子への対策(多因子対策)
アトピー性皮膚炎の治療薬といえばステロイド外用薬、そんなイメージがあると思いますが、治療の選択肢はいろいろあります。
ただまず誤解がないようにお話ししましょう。
アトピー性皮膚炎は、その病気そのものを完璧に治す方法が現時点ではありません。
だから、治療は対症療法が基本になります。
具体的には、ステロイドとタクロリムス軟膏が使われます。
薬を使いながら同時にスキンケアと悪化対策を行います。
皮膚の改善を確認しながら、だんだんと薬を減らしていって、最終的にはスキンケアだけで皮膚のバリア機能を維持できるようになることを目指します。
とはいえ、患者さんのアトピー性皮膚炎の症状は人によってさまざまです。
その状態に応じて、ステロイドの強さを5種類のうちから合ったものを選んで使います。
アトピー性皮膚炎になって、スキンケア・薬を使ったアプローチによる改善のイメージがこちらです。
出典:(公財)日本アレルギー協会『よくわかるアトピー性皮膚炎』
悪化対策とは、生活習慣や生活環境の中で、症状を悪化させることがわかっているものを改善していくことです。
なお、ステロイドの強さと継続する期間は医師・薬剤師の判断に必ず従いましょう。
自己判断で行わないことがなによりも大事です。
ステロイドの強さと使い方についての参考ページ:(公財)日本アレルギー協会『よくわかるアトピー性皮膚炎』
なお、お子さんがアトピー性皮膚炎の方は、親がきちんと治療管理してあげることになりますよね。
悪化対策を次に紹介しましょう。
アトピー性皮膚炎を悪化させないための対策
こちらの2点が気をつけることです。
悪化因子として先ほどもご紹介しましたが、
- 夜型生活を改善
- 食事を見直す
これらが大事です。
これは大人も子供も対策は一緒です。
なぜかというのを丁寧にお話ししましょう。
夜型生活を改善
体内時計の狂いがホルモンバランスと自律神経の乱れを招き、免疫力を低下させることは先ほど申し上げたとおり。
大人でしたら自分の心がけ次第で改善が可能です。
治したい・悪化させないようにしたいならば、強い意志をもって、夜更かしはしない・なるべく早く寝て早く起きるを徹底しましょう。
でも難しいのは子供ですよね。
今はテレビもパソコンもゲームもありますし、おもちゃもたくさん。
子供がついつい夜更かしをしてしまう誘惑がたくさんあるのです。
問題は、光を浴びるテレビ・パソコン・スマホなどの電化製品が、夜眠くなる体の本能に逆らわせてしまうということ。
共働きの家庭ですと、早寝早起きの習慣はなかなかつかないものです。
このことは、私もこの身をもってよ~くわかります。
でも悪化の要因であることがはっきりしていますので、早寝早起きによってホルモンの分泌を整えることが大事です。
育児書には20時には寝かせましょうとか、6時には起床しましょうとか書いてありますよね。
でもそれは、「そのが理想ですよ」というだけで、実際共働きをしていて家で子供と向き合う時間を作りたいと考えたりしていると、そんな理想はとても追求しきれないものです。
私は保育園のことしかわかりませんが、お昼寝を約2時間たっぷりして、午後は外遊びなしで帰って来たりすると、体力が余って余って、21時すぎでも平気で目がぱっちりです。
だから我が家では、早寝早起きの時間を理想に合わせるのではなく、「毎日同じ時間の就寝・起床」を意識するようにしています。
体が自然に眠りに入る準備ができるよう、寝る前には走り回って興奮するような遊びはできるだけ控えて、就寝と決めている時間の1時間前は、大人がどんなに見たいテレビがあろうともスイッチオフ。
30分前には2つある電気のうち1つを消す。
なんとなく、おしゃべりのトーンも下げる(というか暗くなるとこっちが先に眠くなる…)。
そんなうながし方をしていたら、「ねむくなってきた」と目をこするようになります(あくまで我が家はの話しですが)。
そんなかんじで、いつも同じ時間に寝かせるようにしていると、前日の疲労度にもよりますが、朝はだいたい同じ時間に自然に目が覚めます。
朝日で起きて日が沈んだら寝る、そんな原始的な生活ができたらそりゃあ体は元気になるでしょう。
が、そんな現代の世の中はそんな時間感で回っていません。
さて、そんなように整った睡眠では、人の成長と疲労回復・傷の修復なんかがホルモンによって促進されます。
皮膚を治すことに関係して、寝ている間に力を発揮する(たくさん分泌される)ホルモンは2つあります。
- 副腎皮質ホルモン(ふくじんひしつ)
- 成長ホルモン
副腎皮質ホルモンは病気を治す力に影響するもので、睡眠時間の後半から朝方にかけてよく分泌されます。
成長ホルモンは傷ついた皮膚を修復する作用があり、夜眠りについた頃に分泌されます。
この2つのホルモンは、体内時計と朝と夜の明るさ・暗さに忠実なので、夜暗くなって「ホルモンたくさん分泌したいですよ~」というタイミングで横になっていて体が休まった状態なら最高のパフォーマンスを発揮できるというわけです。
ちなみに、治療薬であるステロイドは副腎皮質ホルモンでできています。
食事の見直し
続いて大事な”食事の見直し”
アトピー性皮膚炎の治療には、食事療法が並行して指導されます。
食事療法といえば、アレルギーの原因となる食品を徹底的に避けて、アレルギーの人だけ別メニューで工夫して食事を用意するといったイメージがあると思います。
でも、そんな”工夫が必要な”食事制限はとても大変なので長続きしないというのが担当医師が実感していること。
そこで注目されているのが、「食事制限」ではなく「和食中心」の食事。
日本でアトピー性皮膚炎や花粉症なんかのアレルギー疾患が増えてきたのは、西洋の文化が入ってきてから。
だから、アレルギー疾患が少なかった時代の食事に戻す食事療法がいいのではないかということで研究が進みました。
ある研究では、1万人以上の患者さんに和食の食事にかえてもらったところ、約8割において、症状の改善にほぼ満足できるという結果が報告されたのです。
それから和食が注目を集めるようになり、本まで出版されるほど。
ただ、和食って洋食よりも作るのが大変というイメージがあると思います。
でも私はそんなことないと思う(簡単なことしかしてないからかもしれませんが…)。
めんどうだと思うのは、
- お米をとがなきゃいけない・炊くのに時間がかかる
- 煮物を煮るのに時間がかかる・下ごしらえがめんどう
- 1品だと見た目が寂しいので品数が要る
このへんじゃないでしょうか。
忙しいご家庭だと「時間がかかる」つまり「キッチンに立ってなきゃいけない時間が多いのがきつい」というところだと思います。
でもそれは工夫次第だと思っていて、料理が面倒でだるいと常々思っている私がなんとかがんばるためにしている工夫は、
ごはんは朝仕事に出る前に炊飯予約しておく・とぐのが面倒だから無洗米・忘れていたら早炊きorチンするごはんにする
煮物はめんどうだからできる日にしかやらない・欲しかったら帰り道にスーパーのお惣菜で足しちゃう
電子レンジをフル活用、火が通りにくくコトコトやってなきゃならない野菜はまずチンして柔らかくしてから他の食材に合流する
品数が足りない時はスーパーのお惣菜にする
というかんじ…(笑)
もうどうにかして楽して・キッチンに立つ時間を短くして和食を出すかと思うと、こんなやりすぎな手抜きをしています。
上記の手抜きをすると、洋食メニューを作るのと手間はまったく変わりません。
「手抜き和食ごはん」については、料理スキルとか時短スキルについては素人の私より、達人が紹介する方法などを調べられたほうが参考になると思います。
が、こんな手抜きでも大丈夫だよということが伝われば幸いです。
アトピー性皮膚炎の誤解Q&A
ひとつひとつつぶしていきましょう。
うつるのか
まず、「アトピー性皮膚炎はうつるのか?!」という疑問について。
答え、「うつりません」。
アトピー性皮膚炎は、病原微生物が原因でなるわけではなく、みんなが同じようにさらされているいろんな刺激に、敏感に免疫機能が反応している状態のことをさします。
親がアトピー性皮膚炎で子供も、というケースは、遺伝的・環境的な要因によるものでしょう。
ステロイドはこわいのか
続いて、ステロイドへの誤解について。
ステロイドは強い薬で副作用があるから怖いとかなんとか…
「ステロイド 悪魔の薬」と検索するとたくさんのサイトがヒットしますが、これはすべて民間療法を広めるためだけの「アトピービジネス」。
飛躍しすぎた印象操作です。
ステロイドに対する間違った情報はこんなかんじ。
下記に書くものはすべてデマ。
- 皮膚が黒くなる
- 皮膚が厚くなる
- 背が伸びなくなる
- 白内障になる
- ステロイドは体内に蓄積して怖いことになる
- 副腎機能抑制が起こる
嘘の情報に惑わされないよう、こんなことを言っている方がいたら、きっぱりと「それはちがう」と言って結構です。
まずはステロイドを塗っていると「皮膚が黒くなる」「厚くなる」といった情報について。
ステロイドは皮膚を萎縮させて、色素を作る細胞にも抑制的に作用するので、逆に皮膚は「白く」「薄く」なります。
黒くなる・厚くなるというデマがなぜ広まったかというと、黒く・厚くなる原因がステロイドではなく、湿疹を放置していたせいだということがわかっていなかったからです。
ステロイドを塗らずに湿疹を放っておいてしまうと、ステロイドを塗っても黒く・厚くなってしまうのです。
「背が伸びなくなる」「白内障になる」については、塗り薬であるステロイドが問題ではなく、内服薬と注射による副作用です。
ステロイド外用薬(塗り薬)の副作用はさほど問題視されていませんが、内服薬については、長期間の服用で、
- 子供の身長が伸びなくなる
- 感染しやすくなる
- 顔が丸くなる
- 骨が弱くなる
- 糖尿病を誘発する
- 白内障になることもある
こういった副作用に注意しなくてはならず、内服薬が必要なケースのみ量を最小限に留めて使うことになっています。
外用薬はこんな副作用を避けるために開発されたという経緯があります。
つぎに「ステロイドは体内に蓄積して怖いことになる」について。
子供が生まれた家庭では、ステロイドを赤ちゃんに塗って大丈夫だろうかと心配する方が多い。
しかし、将来にわたるような悪い影響が出ることはありません。
それは、ステロイドがそもそも、人の身体で作られている副腎皮質ホルモンだから。
アトピー性皮膚炎の患者さんは、病気を治す副腎皮質ホルモンの分泌が減っています。
だから、外部から同じ成分のもの(ステロイド)を使ってあげることでその補完になるのです。
そして当然、ステロイドは人体の中のホルモンと同成分なのですから、みなさんがイメージされる「危険」は全くありません。
ステロイドでもし怖いというネタで話しをするのであれば、それは「内服薬に限って」の話しでお願いしますね。
アトピー性皮膚炎の民間療法
アトピー性皮膚炎には、極端にいうとダイエットと同じで、症状改善に効果がある民間療法がたくさんあります。
でも、どれもこれも症状を抑えるのに直接効果を示すものではなく、症状を悪化させる要因に対する対策と考えていただきたい。
改善に個人差はありますが、「効果がありました!」という情報が嘘だということはありません。
ただ、民間療法は実際に研究して効果が証明されたという科学的根拠がないものがほとんどです。
それは、実験されたけど明かな効果が認められなかったのか、そもそも検証されていないのか、いずれかはわからないという意味です。
ステロイドはもちろん、医療の現場で使われている薬は治療方法は全てが、たくさんの研究の上で改善効果を示し、逆に悪化しないこともちゃんと確かめられていて安全に使えるもの。
根拠のない民間療法は、人によっては「症状を悪化させる」「別の病気になる」といった問題が報告されているもの事実です。
さらに、「効果がある」と口コミで広まっているものも、それ自体の効果か「プラシーボ効果」によるものなのかがはっきりしていません。
プラシーボ効果とは、「治る」と信じて飲めば、それが医学的にはなんの効果もないニセ薬でも効き目があるというもの。
笑いの効果と一緒です。
だから、専門のガイドライン的にも、医療従事者の治療計画的にも、民間療法はちょっとよしてほしいというのが本音です。
それを承知のうえでお読みください。
紹介する研究結果は、民間療法の効果について、皮膚科医として研究者として多くの功績を残された遠藤薫先生が行ったアンケート。
1995年に実施されたものですので、とても古いものではありますがご参考に。
参考:遠藤薫 : 民間療法、その現状と問題点。アトピー性皮膚炎治療(最新トピックス)、宮地良樹編、先端医学社、東京、1996年6月、p178-188.
他にも、民間療法の効果についての研究はたくさんありますが、世間的に民間療法はNG的な流れがあるのか、もうステロイドへの不安視が減ってきているためなのか、規模の小さな研究はあるものの、民間療法の実態といったテーマの論文は少ないように見受けられました。
とはいえ、私はこのテーマは専門ではないため、追究しきれていないのかもしれません…
では本題。
遠藤先生によって実施されたアンケートは、大阪府の病院でアトピー性皮膚炎の治療で3年以上通院している患者さん766名を対象に行われました。
766名の内訳は、男性358名、女性408名、平均年齢 20.2歳(10歳未満150名、10~19歳176名、20~29歳313名、30歳以上127名)でした。
民間療法を行ったことがある患者さんへのそれぞれの方法への評価がこちらです。
分類 | 民間療法の種類 | 施行数 | 男 | 女 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
改善 | 悪化 | 数 | 改善 | 悪化 | 数 | |||
内服 | 漢方 | 190 | 23.1% | 12.1% | 9 | 19.2% | 21.2% | 99 |
ドクダミ茶 | 298 | 13.7% | 2.4% | 124 | 6.3% | 4.6% | 174 | |
ルイボスティー | 134 | 26.9% | 0% | 52 | 20.7% | 2.4% | 82 | |
ヨーグルトキノコ | 164 | 9.6% | 15.1% | 73 | 7.7% | 7.7% | 91 | |
クロレラ | 160 | 9.7% | 6.9% | 72 | 12.5% | 9.1% | 88 | |
アロエ | 107 | 17.3% | 13.5% | 52 | 10.9% | 21.8% | 55 | |
プルーン | 89 | 2.6% | 7.9% | 38 | 11.8% | 5.9% | 51 | |
野菜スープ・ジュース | 81 | 36.4% | 6.1% | 33 | 8.3% | 12.5% | 48 | |
ビタミンC | 61 | 38.5% | 0% | 26 | 25.7% | 0% | 35 | |
カルシウム | 73 | 11.1% | 2.8% | 36 | 16.2% | 2.7% | 37 | |
食事療法 | 100 | 55.3% | 0% | 47 | 60.4% | 1.9% | 53 | |
玄米食 | 56 | 34.6% | 7.7% | 26 | 20.0% | 13.3% | 30 | |
無農薬米・野菜 | 71 | 53.8% | 0% | 26 | 28.9% | 0% | 45 | |
アルカリイオン水 | 207 | 15.8% | 3.2% | 95 | 25.9% | 3.6% | 112 | |
入浴剤 | 酸性水 | 139 | 25.8% | 28.8% | 64 | 37.3% | 6.7% | 75 |
入浴剤(漢方) | 56 | 21.4% | 10.70% | 28 | 35.7% | 10.7% | 28 | |
入浴剤(ヨモギ) | 113 | 21.4% | 19.6% | 56 | 22.8% | 14.0% | 57 | |
入浴剤(ニンニク) | 175 | 20.6% | 19.1% | 68 | 25.2% | 15.0% | 107 | |
入浴剤(米ぬか) | 59 | 21.7% | 17.4% | 23 | 25.0% | 19.4% | 36 | |
入浴剤(ビタミンC) | 54 | 6.1% | 0% | 33 | 33.3% | 0% | 21 | |
入浴剤(天然塩) | 142 | 37.5% | 14.3% | 64 | 48.7% | 19.2% | 78 | |
外用剤他 | 馬油 | 159 | 25.8% | 28.8% | 66 | 26.1% | 30.1% | 93 |
スクワラン | 54 | 40.0% | 20.0% | 15 | 40.0% | 23.1% | 39 | |
シソの葉 | 57 | 23.8% | 9.5% | 21 | 16.7% | 13.9% | 36 | |
化粧品 | 75 | 43.8% | 18.8% | 16 | 49.2% | 15.3% | 59 | |
シャンプー・セッケン | 148 | 50.6% | 10.4% | 77 | 55.0% | 7.0% | 71 | |
オードレマン | 66 | 38.1% | 0% | 21 | 33.3% | 20.0% | 45 | |
環境改善 | フローリング | 130 | 58.5% | 1.9% | 53 | 57.1% | 1.3% | 77 |
防ダニ関係 | 113 | 56.6% | 9.4% | 53 | 41.7% | 0% | 60 | |
空気清浄機 | 119 | 35.4% | 0% | 65 | 33.3% | 0% | 54 | |
その他 | 温泉に行く | 117 | 60.0% | 14.0% | 50 | 64.2% | 9.0% | 67 |
海水浴 | 148 | 71.6% | 12.2% | 74 | 71.6% | 9.5% | 74 | |
針灸 | 51 | 26.7% | 0% | 15 | 50.0% | 8.3% | 36 |
※スマホの場合は横にスライドできます。
(注)費用:* 2000円/月以内、** 10000円/月以内、*** 50000円/月以内、**** 50000円/月以上
男性と女性とで若干効果の感じ方が異なりますが、「悪化」した人がゼロで効果を感じた人がいた民間療法はこちらでした。
- ルイボスティー
- ビタミンC
- 食事療法
- 無農薬米・野菜
- 入浴剤(ビタミンC)
- オードレマン
- 空気清浄機
- 針灸
もちろん、この民間療法をためした人すべてが効果を感じたわけではありません。
続いて女性。
- ビタミンC
- 無農薬米・野菜
- 入浴剤(ビタミンC)
- 防ダニ関係
- 空気清浄機
男女ともに改善効果のみを示したものは、
- ビタミンC
- 無農薬米・野菜
- 入浴剤(ビタミンC)
- 空気清浄機
この4つでした。
くりかえしますが、全ての人が効果を感じたわけではありません。
プラシーボ効果もあるため、「これをすればよくなる!」と強く思い込んでいればいるほど、効果が高くなるのも事実です。
でも民間療法ではこのようなものが調査結果から明らかになりました。
乳酸菌・温泉は効果が証明された
続いて、今度はちゃんと効果があることが研究によって証明された民間療法について。
漏れがなければ、新しいものは下記2つでしょう。
- 2015年10月:乳酸菌がアトピー性皮膚炎改善に効果があるという論文が発表
- 2018年5月:温泉がアトピー性皮膚炎改善に効果があるという学会報告
乳酸菌の研究は、ご存じ株式会社ヤクルト社による研究成果です。
アトピー性皮膚炎患者さんを対象に、乳酸菌「ラクトバチルス プランタルム YIT 0132」を含む発酵果汁を飲んでもらった結果、アトピー性皮膚炎の症状が改善しました。
出典:ヤクルト社 商品ページ
下記がリリース情報に掲載された図です。
出典:ヤクルト社 ニュースリリース「乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善」
飲む前と飲んでから8週間後、8週間後に飲むのを終えたさらに8週間後の、患者さんの症状とQOLの推移です。
この研究成果は、科学雑誌「Bioscience of Microbiota, Food and Health」の電子版(10 月 27 日付)に掲載されました。
また、2018年5月に開催された、第83回日本温泉気候物理医学会総会・学術集会で、石油を含む温泉水が湧出する豊富温泉(北海道豊富町)は、入浴によってアトピー性皮膚炎が改善すると報告があり、この研究が研究奨励賞を受賞しました。
この研究はまだ学会での報告だけしか情報がないため、どの程度症状の改善があったのか・どんな患者さんが対象とされ・どんな方法で調べられたのかといった詳しいことがわかりません。
でも、かねてから温泉がアトピー性皮膚炎にいいよという民間療法が科学的に証明されたのは、今後のアトピー性皮膚炎の治療方針に影響しそうですね。
おわりに
ヤクルト社の乳酸菌飲料は、アレルギーの改善に効果があるということで、他にも多数の研究報告があります。
私も花粉症持ちだったのですが、ヤクルトを飲み続けることで症状が改善しました。
あくまでも「改善」で「治るわけではない」のですが。
アトピー性皮膚炎は自身が経験がないため、患者さんがどの程度苦しい思いや不便を感じているかは見聞きした情報からしかわかりません。
が、アレルギー疾患の発症は身体の免疫系に深くかかわっているので、体を疲れた状態にしないこと、飛散量が問題になっている花粉などのアレルゲンとなるものをできるだけ避けること、あとは子供のうちに潔癖すぎないようにといったところが予防につながると思います。
症状改善も悪化防止も、文中でお話しした、体のもとから強くするサポートとなる民間療法がウケてる印象がありますよね。
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