ダイエット中の方にとって「脂肪」は、いろんな意味で重い問題ですよね。
私自身、以前4か月で10kgのダイエットをした時には「脂肪」という問題の重さを実感しました。
また飽食の時代と言われる現代、さまざまな生活習慣病も、重い問題になっています。
……かつて長い間「飢餓」と戦ってきた人類は、エネルギーを「脂肪組織」に貯蔵するシステムを身につけました。
このシステムのおかげで、食べ物が満足に得られない時にも、人類は生き延びることができたのです。
しかし、過去に人類を助けてきたこのエネルギー貯蔵システムが、現代においては肥満の原因となり、病気を引き起こしています。
現代人を悩ませる「脂肪」ですが、この脂肪組織には、2種類存在することが分かっています。
エネルギーをため込むだけの「白色脂肪組織」と、エネルギーを消費できる「褐色脂肪組織」です。
ダイエットに関する情報の中で目にしたことがある方も、いらっしゃるかもしれません。
今回は、この「褐色脂肪組織」について説明します。
目次
褐色脂肪組織とは?
「白色脂肪組織」も「褐色脂肪組織」も、中性脂肪を蓄えた組織であることには変わりありません。
しかし、その働きには大きな違いがあります。
まず「白色脂肪組織」の働きは、私たちがよく知る「脂肪」のイメージそのままです。
普段は余ったエネルギーを蓄えておいて、エネルギーが足りなくなった時に分解され、脂肪酸というエネルギーのもとを血中に放出し、全身に供給します。
人類が飢餓に耐えるため獲得し、今、私たちが悩んでいる「脂肪」そのものですね。
しかし「褐色脂肪組織」は、ただため込むだけではありません。
なんと自分の中でエネルギーを消費して、熱に変えるという役割を持っているのです!
褐色脂肪組織が蓄えているエネルギーは、全身に供給するものではなく、自分で熱にするためのエネルギーというわけです。
この働き、もともとは哺乳類が冬眠時に動くことなく体温を維持するために発達したものと考えられています。
「褐色脂肪組織」には、普通の脂肪組織とは異なり、毛細血管やミトコンドリアといった、エネルギーを消費するための組織が多く含まれています。
血管が入りこんだ組織なので鉄分を含んでおり、そのために茶色っぽい色になっているのが特徴です。
つまり褐色脂肪組織が多い人や、その活性が高い人は、エネルギーの消費が多く太りにくい体質になり、肥満や生活習慣病の予防に役立つのではないかと研究が進められています。
褐色脂肪組織に関する研究の歴史
マウスなどの実験動物を使った研究では、褐色脂肪組織の量や活性の高さによって、痩せや肥満といった体型に影響していることが知られていました。
ですが、人間の成人においては、褐色脂肪組織がエネルギー消費にどの程度の影響を及ぼすかははっきり分かっていませんでした。
そのため「ヒトの成人の場合は、褐色脂肪組織が存在しないか、存在しても無視できるレベルの活性しかない」とも考えられていた時期もありました。
実は生まれたばかりの赤ちゃんには、主に肩甲骨付近などに、褐色脂肪組織が多く存在しています。
それが成人になると、痕跡程度の量しか確認できなかったため、人間の褐色脂肪組織は年と共に減少して影響がなくなるのではないか、と考えられていたのです。
しかし近年、褐色脂肪組織は成人にも存在することや、その活性についても無視できないことが、世界中の研究で明らかになっています。
ということは、褐色脂肪組織をうまく利用できれば、現代人を悩ませる「重い問題」にアプローチできるかもしれません。
褐色脂肪組織が多い人の特徴
成人の褐色脂肪組織が、実際にエネルギー消費にどのくらい関わっているのか、その結果を示した実験結果があります。
寒い環境でエネルギーを消費
あらかじめ褐色脂肪組織の活性に差があることを調べた成人男性を対象にして、「活性有り」と「活性無し」の間でエネルギーの消費量にどの程度の差があるかを調べた研究です。
なお、褐色脂肪組織の活性は、19℃の環境で2時間過ごした後に「FDG-PET/CT(エネルギー源である糖が、身体のどこで使われたかをCTで見る方法)」を用いて調べています。
まず、夏の27℃の環境と、冬の19℃の環境における安静時代謝量(運動を行わない状態でのエネルギーの消費量)の違いです。
この結果は、図1のグラフをご覧ください。
【出典】田中茂穂(2017)褐色脂肪組織がエネルギー代謝に与える影響(2017.7 健康・栄養ニュース 第58号掲載)
褐色脂肪の「活性有」「活性無」ともに、夏(27℃)よりも冬(19℃)の環境でエネルギー消費量が増えているのがお分かりいただけるでしょうか。
誤差を考慮しても、冬の消費量は「活性有」の方が高く、また夏と冬の間での消費量の差も「活性有」の方が高いということを示しています。
つまり、褐色脂肪組織の活性はエネルギー消費量に影響を与えること、そして寒い環境ではその影響が大きくなることが分かります。
体温を維持するために褐色脂肪組織がエネルギーを消費して熱を作りだすことを考えると、冬の寒い環境との比較は非常に興味深い結果ですね。
食事を食べたときエネルギーを消費
もうひとつの実験として「食事誘発性体熱産生」についての研究結果を紹介しましょう。
日常でも感じたことがあるかもしれませんが、食事の後には体温が上がり、身体や手足が温まります。
食事誘発性体熱産生とは、この食事を摂った時に体温が上がる現象のことです。
食事で摂ったエネルギーを体温にして消費できるので、これが大きいほど太りにくいとも言えますね。
先ほどの褐色脂肪組織の活性に差があることを調べた成人男性の、食事誘発性体熱産生の差を示したグラフが、図2です。
【出典】田中茂穂(2017)褐色脂肪組織がエネルギー代謝に与える影響(2017.7 健康・栄養ニュース 第58号掲載)
こちらも、誤差を考慮しても「活性有」の方が高いということが分かりました。
つまり「食事を食べるだけでも、その時のエネルギー消費量に差がある」ということです。
この時のエネルギー消費を分析した結果、「活性有」の方は脂肪から産み出すエネルギーの割合が増えているという結果も出ています。
褐色脂肪組織は、体温のために脂肪を消費する働きを持ちますので、こちらも興味深い結果です。
これらの結果をもとに、温度環境や食事内容の違いによって、どの程度エネルギー消費に差が出るかなど、さらなる研究が期待されます。
褐色脂肪組織をもっと活性化させるには?
このような結果を見ると「自分も褐色脂肪組織の活性を高めたい!」と思われる方も多いのではないでしょうか。
褐色脂肪組織を活性化させることができれば、太りにくい身体になれるということですからね。
肥満や生活習慣病の予防になりうるということですから、褐色脂肪組織の活性を高めるためにはどうしたらよいのかという研究も、もちろん進められています。
唐辛子の成分で活性化
褐色脂肪組織が寒い環境の中で活性化されることは、先の実験結果で示されている通りですが、他にも活性化させる方法が研究されています。
その中で、食べ物による褐色脂肪組織の活性化に関する研究結果がありますので、紹介します。
唐辛子の辛味成分であるカプサイシンを使って活性化させるという実験が行われました。
カプサイシン、またはその類縁体であるカプシノイドをマウスやラットに食べさせる実験では、食べた直後から褐色脂肪組織の温度や体温が上がり、エネルギーの消費量も増加!
また、これを長期間続けると、体脂肪の量も減少しました。
人間の成人による実験では、以下の図のような結果が出ています。
【出典】斉藤昌之(2012)褐色脂肪組織でのエネルギー消費と食品成分による活性化(2012 化学と生物 Vol.50,No.1掲載)
カプシノイドを摂取すると、プラセボ(偽薬)を摂取した場合と比べてエネルギー消費量が多くなっているのが分かりますね。
また、褐色脂肪組織が多い方がエネルギー消費の差が大きく、カプシノイドが褐色脂肪組織の活性を高めていることも示されています。
他にも、ショウガの辛味成分であるパラドールや、ニンニクの辛味成分アリシンなどにも同様の効果があるのではないかということで、研究が進められているところです。
食べるもので活性化させられることが分かれば、新しい健康食品などに応用できる可能性がありますね。
注目!「ベージュ脂肪組織」って?
また、近年注目されているのは「ベージュ脂肪組織」。
これは白色脂肪組織の中に存在する組織で、褐色脂肪組織に似た働きを持つことがあるというのです。
分類としては褐色脂肪組織とまったく同じというわけではなく、あくまで白色脂肪組織。
しかし、性質は褐色脂肪組織によく似ており、エネルギーを消費することができるのです。
ベージュ脂肪組織は、寒冷などの刺激によって、白色脂肪組織の中にできると言われています。
年と共に減っていく褐色脂肪組織を直接増やすわけではありませんが、同じような働きをする組織を増やす(つまり、白色脂肪をベージュ脂肪に変える)ことで、消費エネルギーを増やせる可能性がありますね。
どのような条件でベージュ脂肪組織が増えるのかなどはまだまだ研究段階ではありますが、こちらについても、肥満や生活習慣病の予防になるのではないかと期待されています。
まとめ
肥満や糖尿病などの予防や治療が期待でき、注目を集めている「褐色脂肪組織」。
まとめると、以下のようになります。
- 脂肪には、エネルギーを消費できる「褐色脂肪組織」がある!
- 褐色脂肪組織の活性が高いと、寒いときや食事のあとにエネルギーを多く消費する!
- 唐辛子などの食べ物によっても活性が高まる!
- 白色脂肪組織の中にも、エネルギーを消費できる「ベージュ脂肪組織」が作られる!
現時点ではマウスなどを使った研究の段階ですが、今後唐辛子やショウガ、ニンニクの成分の有効性が認められれば、トクホなどの健康食品が現れるかもしれません。
普段の食事でも、炒め物の香りづけやアクセントにショウガやニンニクを使ったり、汁物に唐辛子を振るなど、取り入れやすいですね。
これからも「褐色脂肪組織」や「ベージュ脂肪組織」に関する研究や最新情報には注目です。
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