「メタボリックシンドローム」と聞いて、どんな方をイメージされるでしょうか。
たとえば中年の男性で、肥満気味の方……という、冒頭の画像のようなイメージがあるのではないでしょうか。
しかし、メタボリックシンドロームは男性だけの症状ではありません。
また近年では、「子供の肥満やメタボリックシンドローム」も多く見られています。
メタボリックシンドロームは、生活習慣病を引き起こしやすい「予備軍」の状態です。
かつて「成人病」と呼ばれ「大人になってかかる病気」と思われてきた生活習慣病ですが、大人だけが気を付けるべき病気ではないということですね。
今回は、子供のメタボリックシンドロームについて説明します。
目次
メタボリックシンドロームとは
お腹が出ている「メタボ体型」というイメージがあるメタボリックシンドロームですが、実際にどのようなものなのでしょうか。
まずは「メタボリックシンドローム」の基本について説明します。
メタボリックシンドロームは、ざっくり言うと「肥満」と「生活習慣病(予備軍)」の両方に当てはまっている状態です。
肥満には「皮下脂肪型」と「内臓脂肪型」の2種類がありますが、そのうち「内臓脂肪型」がメタボリックシンドロームの条件に当てはまります。
皮下脂肪型の肥満は女性に、内臓脂肪型の肥満は男性に多い傾向がありますが、冒頭の画像のような「メタボ体型」のイメージはそこから来ているようですね。
しかし、女性でも内臓脂肪型の肥満はありますし、メタボリックシンドロームと無縁というわけではありませんので、気を付けましょう。
皮下脂肪型の肥満は、全身に脂肪がつきますので、全体的にふっくらした「洋ナシ型」と呼ばれる体型になりやすいのが特徴です。
逆に、内臓脂肪型の肥満の場合は、内臓があるお腹に脂肪がたまるため、お腹周りだけがぽっこり飛び出す「リンゴ型」の体型になります。
メタボリックシンドロームは「内臓脂肪型」の肥満に加えて、「高血糖」「高血圧」「脂質異常症」の3つのうちの2つ以上の症状が出ているという状態です。
子供の肥満は増加傾向?
文部科学省の調べによると、子供の肥満は平成元年(1989年)ごろから増加傾向にあります。
「飽食の時代」と呼ばれ、生活習慣病(当時の呼び方では「成人病」)が問題になっていた頃です。
たとえば、平成29年の調査では、2歳から17歳の肥満は平均で7.6%。これは昭和50年代と比較した場合、1.5倍程度に増えています。
ここ10年は、健康意識の高まりも影響してか減少傾向にありますが、それでも14~15人にひとりの割合で肥満というのが現状です。
【出典】学校保健統計調査-平成29年度(確定値)の結果の概要:文部科学省
また見た目だけはなく、大人と同じように内臓周辺に脂肪がたまり、高血糖や高血圧、高脂血症を併発している「メタボな子供」もいます。
「成人病」と言われていた病気が「生活習慣病」に名前を改められたのは、子供の時から気を付けなければいけない病気だからです。
成長期である子供の時に肥満だと、脂肪細胞の数が増えてしまうため、大人になってからも太りやすく、痩せにくい身体になります。
そのため、小児肥満の子供の約70%が、成人肥満に移行すると言われているのです。
ちなみに、子供のメタボリックシンドロームの基準は以下の通りです。
- 『腹囲』腹囲が、中学生なら80cm以上、小学生なら75cmまたは腹囲÷身長が0.5以上。
- 『高血糖』空腹時血糖が100mg/dL以上。
- 『高血圧』収縮時血圧(いわゆる「上」)が125mmHg以上、または拡張期血圧(いわゆる「下」)が70mmHg以上。
- 『脂質異常症』血中の中性脂肪が120mg/dL以上、またはHDLコレステロールが40mg/dL未満。
このうち、『腹囲』の項目に当てはまった子供で、かつ『高血糖』『高血圧』『脂質異常症』のうち2つ以上に当てはまった場合、メタボリックシンドロームと判断されます。
子供が肥満になる原因
子供の肥満の原因は、大きく分けて3つあります。
- 食事の習慣
- 運動の習慣
- 生活リズム
大人の肥満も同じような原因で引き起こされますが、子供の場合は自分で食事を選ぶことは難しいですよね。
運動習慣や生活リズムにしても、育った環境に左右されることが多いもの。
大人の肥満の場合は自分の生活習慣に原因があることが多いのですが、子供の場合は親御さんなどの家庭環境に原因があるというわけです。
食事の習慣
子供の肥満の多くは「単純性肥満(原発性肥満)」というタイプです。
病気などを原因とする肥満ではなく、摂取するエネルギー(カロリー)が消費するエネルギーよりも多いため、余ったエネルギーが脂肪に変わっていくというもの。
食事やおやつ、あるいはジュースなどの清涼飲料水の摂りすぎが主な原因ですが、食事内容のバランスが悪いとビタミンなどの栄養が不足し、これも肥満の原因となります。
給食などを除いた家庭での食事の場合、家族それぞれが違うものを食べるということはあまりありません。たいていの場合、量は違っても家族で同じものを食べるでしょう。
つまり、親の食事の習慣がそのまま子供に影響するということになります。
たとえば親御さんが揚げ物好きなら、食卓によく揚げ物が上がることになり、お子さんも揚げ物を頻繁に食べることになります。
甘いものが好きで、キッチンに常にお菓子が置いてあれば、お菓子を食べる習慣が身につきやすくなるでしょう。
運動の習慣
これは自分もそうだったので耳が痛いところなのですが、インドア派の子供……たとえば、部屋でゲームを長時間続けたり、横になって動画サイトを見たりといった生活は、やはり肥満の原因になります。
外で身体を使った運動をしている子供を比較すると、インドア派の子供は肥満になりやすいという調査結果が出ています。
近年話題になったところでは「すぐに『疲れた』と言う子供たち」というもの。
周囲の大人のマネをして「疲れた」と言っているケースもあるかと思いますが、習い事などのストレスで本当に疲れている場合、さらに運動をするというハードルが高いのは、共感できるところですよね。
生活リズム
日本小児保健協会が平成22年(2010年)に行った「幼児健康度調査」によると、夜10時以降に就寝する子供は1歳6か月児で30%、2歳児で35%、3歳児で31%、4歳児で26%、5-6歳児で25%となっています。
昭和55年のデータと比較すると、いずれも5~15%の増加となっています。
【出典】平成22年度幼児健康度調査報告 – 公益社団法人 日本小児保健協会
平成12年の調査データと比較するといずれも減少しているのですが、3~4人にひとりが夜10時以降まで起きているというのは、やはり「夜型」の傾向と言えるのでしょう。
夜型の生活が肥満を招きやすいというのは、みなさまご存知の通り。
しかしこの「夜型」も、たとえば夕食の時間やお風呂の時間など、周囲の大人の生活リズムに合わせているのが原因のひとつと言われています。
子どものメタボリックシンドロームを予防するための対策
子供のメタボリックシンドロームを防ぐための生活習慣は、大人のメタボ予防と変わりません。
今回は、食事と運動について説明します。
メタボ予防のための食事
標語にすれば「規則正しくバランスのいい食生活」ということになりますが、具体的にイメージするのは難しいですよね。
以前もご紹介した「食事バランスガイド」を使って、主食(ごはん・パン・麺)、主菜(肉・魚・卵・大豆製品のおかず)、副菜(野菜のおかず)がそろった食事を目標にするとバランスを取りやすいです。
「食事バランスガイド」は、1日で「何を」「どれだけ」食べればいいかを示した図。
実際に食べた「皿数」をカウントしていくと、食事のバランスがいいか悪いかがわかるようになっています。
また農林水産省のサイトでは、親子で使える「食事バランスガイド」の教材もダウンロードできます。
ぜひ一度ご覧になってみてはいかがでしょうか。
また、こちらも以前紹介しましたが、外食や中食(持ち帰りの食事)で「バランスのいい食事」を実際に食べることができる「スマートミール」という制度も始まります。
実際に見て、食べることは、何よりわかりやすい教材。普段の食事にうまく取り入れられると、食生活の改善にも役立ちそうです。
前述の通り、子供の食事は親御さんなどの周囲の大人に影響されるものです。
たとえば偏食で野菜が不足すると、メタボリックシンドロームだけではなく、他の様々な病気の引き金にもなりうるでしょう。
まずは、料理を作るお母さん、お父さんたちの「食事に対する意識」が大切ということですね。
メタボ予防のための運動
いくら「運動は大切です」とわかっていても、なかなか実行は難しいものです。
ましてや今の子供にはゲームや動画サイトなど、外で遊ぶ他にも楽しいことがいっぱいあります。(公園でボール遊びなどが禁止されれば、なおのことインドアの方が楽しいですよね……)
そんな子供たちに「運動しなさい!」と言っても、なかなか続くものではないでしょう。運動が苦手な子であれば、なおのことです。
そんな時は、まずは運動への苦手意識を少しずつ変えていくことから始めるのがいいでしょう。
親子で一緒に目標を立ててウォーキングやサイクリングをする、というのもいい方法です。
ウェアやシューズを一緒に揃えたり、達成した時のごほうびを用意したりすることで「楽しみながら運動する」ことを心がければ、徐々に運動に対する抵抗も減っていくはずです。
「運動するのが気持ちいい」と思えるようになれば、自然と習慣にできるのではないでしょうか。
まとめ
今回は、子供のメタボリックシンドロームについて説明しました。
まとめると、以下のようになります。
- メタボリックシンドロームは「内臓脂肪型肥満」に加えて「高血糖」「高血圧」「脂質異常症」のいずれか2つがある状態です。
- 子供の頃の肥満は、成人してからもメタボリックシンドロームなどの原因になります。
- 肥満の原因は、大人と同じく「食事」「運動」「生活習慣」。ただし、周囲の大人の生活習慣に影響される点が、大人とは異なります。
- 肥満を改善するためにも、親御さんなどの周囲の大人が気を付けていく必要があります。
私がこれまで栄養指導をしてきた中では、たとえば偏食(好き嫌い)についても、親御さんの影響は大きいように思われます。
たとえば親御さんが野菜嫌いで、お子さんも野菜を食べる習慣がなかったために「食わず嫌い」になるケースなどがありました。
「太りやすい体質は遺伝する」と言われますが、管理栄養士の経験からは「太りやすい食習慣が遺伝する」ではないかと思います。
もし気になる食習慣がある方は、少しずつでも改善できるように心がけたいものですね。
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