日常的に「色」を意識したことがありますか?
色は人に与える印象を変え、健康にも影響することがわかっています。
今回は、色彩心理学でわかっている基本的なことと、具体的な導入事例を踏まえて、日常に取り入れられそうな工夫をご紹介します。
目次
実際の論文からわかっている色彩の効果
色が人に与える影響をはじめとする色と人の研究は、色彩心理学と呼ばれる学問で研究されています。
色は私達の日常生活に常に共存するもので、例えばお住まいの部屋の壁の色や公共施設に使われている色、着ている服の色などで気分が上がり下がりするものです。
色彩心理学の研究では、例えば青は心を落ち着ける効果があるとか、逆に赤は心をざわつかせる(興奮させる)といったことが報告されています。
この研究結果は大変事故件数削減へ大きな効果を生み、具体的には
- 高速道路でスピードが出やすい区間の事故防止のために青のLEDが意図的に使われている
- 駅のホームで自殺防止のための
- 危険表示の道路標識は最も危険感知&認識しやすい黄色
- 赤・オレンジは興奮させる
- 灯火として用いられている
などなど、公共のいろんな場面で活用されていて、実際の事故件数削減につながっているのです。
また、メンタルへのアプローチとしては、カウンセリングやカラーセラピーといった自己分析または心理療法などに役立っています。
とはいっても、どんな効果や影響がわかっているのでしょうか。
まずは色の基本的なところに軽く触れましょう。
前提:色は光
中学生の理科で初めて触れているはずの「色とは何か」ということ。
色が見えるのは、光があることが前提です。
さらにこれは高校の物理「波」の単元だったか…
光は波です。
光はいろんな波を同時に持っています。
それらがあるモノに当たって(届いて)、モノの種類によって、反射した特定の波が「色」として私達の脳が認識するのです。
赤い色の波長のみを反射させる性質を持つモノだったら、人はそのモノを「赤だ!」と思うしくみです。
波の話しをはじめると、赤外線だとか紫外線だとかX線だとか…光と含む”波”にはいろいろあって、そちらのお話しもおもしろいのですが、今回取り上げるのは「色」を認識するための「可視光線」だけです。
色彩心理だとかカラーセラピーだとか、いまいち一般的ではなくマイナーな印象がある方も多いかもしれません。
また、色が人へ影響を及ぼすといったって、生活が大きく変わるとかそのレベルの話しではないでしょうと思いがち。
でも「色は波」、そう考えれば、物理的に身体が反応するということは「なるほど」と納得がいくのではないでしょうか。
この手のお話しでほしいのは科学的根拠。
佐々木仁美さんの著書『色の心理学』から、具体的な効果についてちょっとずつ引用してみました。
色によって感じる温度がちがう
これはなんとなくおわかりかも。
赤い部屋と青い部屋を想像してみてください。
赤のほうが暖かいイメージがありますよね。
そのとおりですが、実際にこれは実験によって検証されていること。
同じ部屋を2つ用意して、室温・湿度等の環境条件も全く同じに、赤一色と青一色の部屋に入ってもらって生体反応を調べた研究がありました。
その結果、
- 赤い部屋に入ったグループは、脈・呼吸数・血圧が上昇、暑く感じた
- 青い部屋に入ったグループは、脈・呼吸数・血圧が低下、涼しく感じた
というのです。
色とは光の波長ということで、波の種類によって筋肉を緊張させたり逆に緩めたりという影響があることがわかっています。
それを数値にしたものがライト・トーナス値というもの。
ライト・トーナス値
光の色の種類によって、このライト・トーナス値が異なり、
- 赤い色(暖色)に近づくほど、筋肉が緊張し、血圧・脈拍・呼吸数が上がる
- 青い色(寒色)に近づくほど、筋肉が弛緩し、血圧・脈拍・呼吸数が下がる
といった影響を人の身体に与えるのです。
ちなみに、赤のライト・トーナス値は42、オレンジが35、黄が30、緑が28、青が24です。
出典:明智 しおり:色彩が消費者心理に与える影響について-食品パッケージにみる”青”の考察-
このように物理的に生体への影響も多いにあり!ということで、さらにおもしろいのが、色によって感じる時の長さが異なるということ。
色によって感じる時の長さがちがう
佐々木さんの著書では、浦島太郎の物語を例に挙げていて、なるほどなるほどと思いましたが。
青いほど時間は短く、赤いほど長く感じるというのです。
もちろんこれもある研究で実証されていて、この時間感覚の違いは約2倍にもなるそうです。
浦島太郎の物語は、竜宮城に行って帰ってくるとおじいさんになっていた、そんな流れのお話しですよね。
海の中の竜宮城は青のイメージ、青は時間を短く感じさせるため、浦島太郎は自分が気づかないうちに長い年月が過ぎていた(=歳をとっていた)ということ。
この物語、青色の特性を駆使して構成されたものかどうかは謎ですが、佐々木さんいわく「実に的を得た話」とのこと。
この特性が現実に活かされている例は、
- ファストフード店の内装カラーが暖色系⇒少しの時間でも長く居たような錯覚を起こして満足感を得させる
- 時間を長く感じやすい単純作業(ex.工場など)は寒色系⇒時間を短く感じさせ能率を下げない工夫
- スーパーホワイトが多い小売店の内装カラーをアイボリーに⇒客の滞在時間を伸ばし売り上げアップ
こういった狙いはカラーマーケティングと呼ばれる経営手法の1つで、色彩心理の法則ががっつりと応用されています。
では、カラーマーケティングを含む、色を戦略的に使って成功せいた事例を具体的にみてみましょう。
色を使ったさまざまな成功例
- サンタクロースの赤白コーディネートの発信は、コカ・コーラ社の販促キャンペーン
- アサヒスーパードライ発売から一新した青のコーポレートマークでビール業界トップに
- 自殺名所のカラーを黒から緑にかえることで自殺者が1/3に減った
- 刑務所のカラーをピンクにかえることで、気性の荒い囚人を落ち着かせた
- 格闘技選手は、赤のウエアを着た方が勝率が20%も高い
サンタクロースの赤白コーディネートの発信は、コカ・コーラ社の販促キャンペーン
1930年代、アメリカ大恐慌時代のことです。
サンタクロースはもともとは緑色の衣装を着ていました。
が、コカ・コーラ社は企業イメージを定着させるために、サンタクロースにコカ・コーラ社のコーポレートカラーの赤白を着せたのです。
“大きな身体に真っ赤な衣装をまとい、白いあごひげをたくわえた陽気なサンタクロース”
これが、私達が良く知るサンタクロースの定番カラーですよね。
出典:コカ・コーラ社「コカ・コーラにまつわる話サンタクロースとコカ・コーラ」
このカラー戦略によって、コカ・コーラ社のイメージカラーとともに、現代に伝わるサンタクロースのカラーまでをも買えてしまいました。
アサヒスーパードライから青の販促マーケティング
ビールが有名なアサヒは、青のロゴで販促キャンペーンを打ち出しました。
今では誰もが良く知る右側のロゴデザイン、昔は左の赤の太陽と波のデザインだったことをご存知でしょうか。
出典:hitorifest.com「有名企業のロゴの新旧デザインを10個比較してみました。」
アサヒは、1997年に「スーパードライ」を発売するタイミングで青のマーケティングを展開しました。
それまでの赤のロゴは実に100年以上も続いていた歴史あるブランドロゴから一新、白地に青のロゴをコーポレートマークにかえたのです。
青の印象は、「爽やか」「清々しい」「清涼感」等を印象付けやすく、CMでも水滴やみずしぶきを多用することで、
クール&ドライ
をグイグイと押し出したのです。
その戦略は見事に成功!
これまでアサヒはビールの売り上げトップをキープし続けています。
自殺名所のカラーを黒から緑にかえることで自殺者が1/3に
日本でも社会問題となっている自殺。
厚生労働省によると自殺死亡率は、日本は世界の中でも6番目に高いと報告されました(2017年「自殺対策白書」)。
この結果は、先進国でも最悪レベルです。
自殺予防は、職場のメンタルヘルスや「いのちの電話」等の相談先案内のリーフレット配布など、国をあげて取り組まれています。
日本で身近なのが鉄道の人身事故。
飛び込み自殺を防止するために、ホームドアの設置や、ホームの端に青色の灯火を設置したり、特に都心の鉄道ではさまざまな対策がとられています。
また、イギリスでは、飛び込みに関する報道を控えることで、実際の飛び込み件数を減少させたといった報告もあります。
日本では最近、事故直後のアナウンスでそれまで『人身事故』と表現していたものを『列車がお客様と接触』を使うようになりました。
これも、「人身事故」というキーワードが「自殺」を安易に連想させやすく、鉄道自殺を助長してしまう懸念があるとの研究報告があったことがきっかけでした。
遭遇したくないものですが、そんな時の車内や駅構内でのアナウンスを意識的に聞いてみてください。
さてこのように自殺防止の取り組みは工夫を凝らして行われているものですが、今回はカラーに関連する自殺防止策について。
イギリスのロンドンのテムズ川。
ここに架かっているブラックフライヤーズ橋(Blackfriars Bridge)、ここはなんと日本でいう富士の樹海同様に自殺の名所といわれているのです。
何とか自殺を減らそうと取り組んだのが、黒かった橋の色を緑色にかえること。
出典:spitalfields life「The Bridges of Old London」
現在は赤の着色となっていますが、心をリラックスさせる効果がある緑色にかえたことで、自殺者数が3分の1に減ったそうです!
出典:WIKIPEDIA「Blackfriars Bridge」
刑務所のカラーをピンクにかえることで、気性の荒い囚人を落ち着かせた
スイスで有名なプロジェクト「cool down pink」をご存じでしょうか。
ピンク色は感情を落ち着かせる色ということで、スイスの刑務所が取り入れた、刑務所内の内装カラーをピンクにするというもの。
囚人たちは子供っぽいことなど理由に嫌がっているそうですが、心理学者によるとその効果は絶大。
通常、囚人を独房に収容する時間は2時間だが、ピンクの独房の場合、15分あれば囚人の怒りはおさまるということです。
このピンク色を使った取り組みは、アメリカの刑務所での事例がよく知られていて、犯罪率激減という脅威の結果を報告しています。
格闘技選手は、赤のウエアを着た方が勝率が20%も高い
これもおもしろいもので、科学誌ネイチャーに掲載された研究結果が明らかにした、勝負強い色。
ボクシング・テコンドー・レスリング…このような格闘技の競技において、赤のユニフォームとそれ以外の色のユニフォームで対戦した時、、、、
赤のユニフォームのチームの勝率が20%も高い結果が明らかになったのです。
はい、思い出しましょう。
赤は生体反応として、脈拍を高め、呼吸数を増やし、血圧を上昇させることがわかっているカラーです。
脈拍・呼吸数・血圧の上昇は、2つある交感神経のうち、起きている時に働く交感神経をより活発にする作用があります。
交感神経が優位になると刺激物質であるアドレナリン・ノルアドレナリンがたくさん作られます。
これらは緊張状態を耐え抜く体の免疫反応ですが、同時にいわゆる「火事場の馬鹿力」を発揮する条件に近づいていく、つまりパフォーマンスを発揮しやすい状態になるのです。
特にアメリカでは、この赤を使った戦略にとても注目していて、ビジネスシーンでも大統領が大事な場面で赤のネクタイを締めていたり、赤いハンカチを持っていたりするそうですよ。
カラーテレビが流行り出した時代、ケネディ大統領は、カラーコンサルタントを雇って完璧なカラーコーディネートのもと、対立候補のニクソンとの討論会にのぞみました。
すると、それまで支持率はニクソンが優勢でしたが、この討論会を機に一転。
ケネディ大統領は勝利を収めたのです。
専門家によると、勝負強い「赤」を大事な場面で取り入れることは効果があり、それが赤ではないユニフォームの時には下着を赤にするとか、身に着けるモノいずれかを赤にしてみても良いとのこと。
男性のみなさん、就活などの場面での印象戦略にはぜひ赤を起用してみてはいかがでしょうか。
おわりに
今回は色は人の生体反応にすら影響するということ、そして具体的な戦略の代表的なものをご紹介しました。
私達の生活は当たり前のように「色」に囲まれていますが、気分によって・体調によって、自然とその場その場での好みが違ってはいませんか?
思い返すと、例えば私はカフェで少し集中した仕事がしたいときは、クリアホワイトの内装のカフェを自然と好んでいますし、リラックスしたいなという時は、暖色系のライトが使われているカフェに自然と足が向きますし。
普段身に着けるもののカラーまで意識するのはちょっと大変かもしれませんが、統計的に「赤は勝負強い」ということを頭の片隅に置いておき、試してみてもいいかもしれませんね。
今回はご紹介しきれませんでしたが、色を使った治療法というのも注目されています。
メンタルヘルスへのアプローチも含め、また別の記事でご紹介しますね。
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