これまでこのサイトでは便秘についてさまざまに取り上げてまいりました。
便秘は腸管の働きにもかかっていますし、ストレスなどの影響もうけますが、基本は食べたものに強く依存すると考えて良いでしょう。
今回は、便秘と関連の強い食事について取り上げました。
まずは食事の消化・吸収の基本に少し触れ、便秘になっているときの腸の中の状態を軽くご説明します。
そして本題、2007年に発表された研究から、便秘になりやすい栄養素比較・食事の摂り方比較・食べる量との関連についてご紹介します。
目次
便秘のときの腸の中
便秘や下痢はともに腸管の異常です。
便秘とは、一般的には4日以上便が出ないことを言いますが、たとえ2日でも便が出なくて苦しい場合も便秘といい、人によって”苦しい”度合いはさまざまです。
要するに、いろんな原因によって、本来はリズムよく便が腸管をとおって肛門から出てくるところを、腸の運動が弱ったり痙攣したり、便意が湧かないといった状態になってお腹のなかにため込んでしまう状態のことです。
便秘にはコーラック♪の大正製薬さんのHPがとてもわかりやすかったため、ご参考に。
便の停滞場所でみる便秘の種類
便秘は腸管内のどの場所で動きにくくなっているかによって、種類がわかれてきます。
出典:大正製薬「便秘の仕組みと便秘の知識:1. 腸の中では何が起きているの?」
図の①の場所で便が停滞すると弛緩性便秘(しかんせいべんぴ)。
こちらの記事にも書きましたが、
弛緩性便秘とは機能性便秘の1つで、日本人に最も多い便秘であるとされています。
結腸でぜん動運動が弱く、便を先に送り出せなくなるのが原因です。
弛緩(しかん)とは、”ゆるむ”こと。
腸のぜん動運動がゆるくなるということ。
お腹の上の方で便が止まっているため、便秘で腹痛が起きている・違和感があることを感じるのは、下腹部の上の方。
続いて、②で便が停滞するとけいれん性便秘です。
こちらは、弛緩性便秘とは真逆で、ぜん動運動が強くなり過ぎて、腸がけいれんを起こしてしまうことが原因です。
便秘と下痢を繰り返すことが特徴です。
ストレスや緊張の影響を受けやすいのがこのけいれん性便秘です。
下腹部の下の方が痛くなる傾向があります。
最期に、③の場所で便が停滞すると直腸性便秘です。
もう出口の手前なのに、便意が起こらない状態の便秘です。
職業柄、または便意を我慢してしまう癖のある方に多く、排便リズムが乱れている状態です。
腸の消化・吸収の基本
ここで、そもそも腸管内の消化・吸収の働きってどうなってるの?という疑問を補完しましょう。
食べたものがどういう旅をして便になっていくのかということです。
- 食べ物を口に入れて噛む(咀嚼する)➡食べ物を細かくして唾液によって消化しやすくする
- 細かくなった食物が胃に進み、ここでまずタンパク質を消化する
- 十二指腸を通過して小腸では消化酵素によって、体に吸収できるサイズまで分解*9割がここで消化・吸収
- 大腸で水分・残り1割の栄養素を吸収
- 全ての栄養源を取り込んだ残りカスが便となり、腸管を進む間に固まって排出
ちなみに、胃の中ではタンパク質を消化する時間が食べ物によって異なります。
消化しやすいもの・しにくいものの違いですね。
ご参考までに胃の中でタンパク質が消化されるまでの時間は、
- ご飯・パン・麺類:2~3時間
- お刺身:約2時間
- 焼き魚・煮魚:約3時間
- 天ぷら:約4時間
- ステーキ・すき焼き:4時間以上
- 果物:1~2時間
- 野菜:2~3時間
よく、運動する前や体調が悪い時は消化に良いものを食べるようすすめられますよね。
消化に良いとは、つまり消化に時間がかからないということ。
体が消化するためにがんばる時間が短く済むため、体に負担がかからずにすぐエネルギーになるということ。
果物は消化時間が早く、たとえば低カロリーかつ栄養価の高い代表がバナナ。
スポーツ先週が休憩中バナナを口にする姿を見かけたことはありませんか。
バナナは果物の中では炭水化物が多く含まれ、その他食物繊維やビタミンも豊富なのです。
栄養の話しはこちらの記事でも取り上げておりますのでご参考に。
消化・吸収後排便までの道のり
栄養成分が吸収されてから、腸管の中では水分が吸収されながら固形状にかたまっていきます。
水分は尿になり、固形状のものは便として別々に排出されるわけです。
便の状態はそのまま人の健康状態ともいえるほどですが、それは体の消化吸収能力が正常か異常かの判断がつくということですね。
出典:大正製薬「便秘の仕組みと便秘の知識:1. 腸の中では何が起きているの?」
便秘の状態はさきほどご紹介した通り、腸管の中で便が進まなくなってしまうことです。
では下痢は?
下痢は水分をたくさん含む便ですよね。
本来は腸管内で吸収される水分ですが、消化・吸収する働きが弱くなると、吸収しきれずそのまま出てしまうということ。
つまり、胃腸の具合が悪いと消化できずに下痢になるケースと、水分を通常吸収できる量を越えて飲むと消化できず下痢になるケース。
下痢にはこの2通りあります。
例えば、お酒をついつい飲みすぎた次の日、下痢になる経験がある方は多いのではないでしょうか。
特に、水分を短時間に2~3リットル以上飲むと、胃腸が働いてくれず下痢になるケースが多いです。
食べるものと便秘
日本では、便秘と食べるもの・食事の仕方などの関連を調査した研究はそれほど多くありません。
でも便秘に悩む人が多いとされている日本人の助け舟となるよう、東大の公共健康医学の佐々木 敏教授筆頭に、研究チームが調査を実施しました。
研究チームは、1997年および2004年にそれぞれ別の調査を実施しています。
1997年の調査:食品と機能性便秘
まず、機能性便秘とはなにか?
便秘にはいくつか種類があって、大きくは機能性便秘と器質性便秘にわかれます。
機能性便秘は、生活習慣などが原因で腸に異常がでてしまったことによる便秘、器質性便秘はそれ以外の例えば病気が原因で起こる便秘のことです。
この研究では、病気が原因になる便秘ではなく、食事の影響を受ける便秘との関連を調べたかったため、機能性便秘の人のみを対象にしました。
対象は、18歳から20歳の女子大生約2,000人。
調査の結果、ごはんをたくさん食べている人のほうが機能性便秘になっていないことがわかりました。
2004年の調査:食べる量と機能性便秘
研究チームは、さらに深く食生活と便秘の関連を調査するため、2004年に改めて調査を実施しました。
対象は、18歳から20歳の女子大生3,835人。
便秘の基準には、便秘診断のために医療現場で最もよく使われているローマⅠ(RomeⅠ)を使いました。
RomeⅠの質問内容はこのようなかんじです。
結果わかったのがこちら。
- 全体の約26%(1,002人)が機能性便秘だった
- ごはんを食べる量が多い人ほど便秘が少ない傾向があった
- 最もごはんを食べるグループは、最も食べないグループより約4割も機能性便秘が少なかった
- 豆類を食べる量が多い人ほど機能性便秘が少なかった
- お菓子やパンを食べる量が多い人ほど機能性便秘が多かった
- 乳製品と便秘との関連はでなかった
- 食物繊維については機能性便秘と関連性はでなかった
まず、ごはんを食べる量が多い人が便秘が少ないという、前回の調査結果を支持する心強い結果がでました。
逆にパンを食べる量が多い人に便秘が多かった。
こちらの図表がわかりやすいでしょうか。
左が食べる量が少ないグループ、右にいくにつれて食べる量が多いグループになります。
それぞれ、ごはん・パン・菓子類・豆類それぞれ食べる量ごとにグループにわけて便秘のリスクを計算しています。
この図では、最も食べる量が少ないグループを基準に1としたとき、食べる量が多いグループは便秘になるリスクが何倍になるかがわかるようになっています。
たとえば、■マークのパンを見てみます。
一番右、5群のグループは一番パンを食べる量が多いグループです。
このグループのリスク比は1.4。
つまり、最もパンを食べる量が少ないグループよりも1.4倍も便秘の人が多いということが読み取れるのです。
2005年の調査:食事内容と機能性便秘
研究チームは、2005年の調査では、どんな内容の食事を食べているか、その傾向と便秘の関連を調査しました。
対象は、18歳から20歳の女性3,770人。
食事内容とは、栄養の偏りがなく健康的な食事が多い人、油分や肉類が多い欧米的な食事が多い人といったことです。
アンケートで食べているものを答えてもらい、似た食事内容のグループに対して、それぞれのグループをわかりやすく表現できるグループ名をつけました。
それがこちら。
- 野菜や魚介類などの多い「健康型」
- ごはんやみそ汁、大豆製品が多い「伝統的日本食型」
- 肉類や油脂類などが多い「欧米型」
- コーヒーや牛乳、乳製品が多い「コーヒー・乳製品型」
食事内容はこれらの4つのパターンにわかれました。
そして、それぞれの食事内容のパターンごとに便秘との関連を解析したのです。
その結果が下の図。
- 「伝統的日本食型」グループのうち、その度合いが高くなるにつれ機能性便秘の人が少なくなった
- 「欧米型」「健康型」「コーヒー・乳製品型」のパターンは機能性便秘との関連が出なかった
一連の調査から考えられること
研究チームは、これらの結果から、ごはん・みそ汁・大豆製品が豊富で、お菓子やパンの摂取量が少ない食品摂取パターンが、便秘の予防に効果がある可能性があると考えています。
でも、ちょっとひっかかった方も多いかもしれませんが、この調査、対象が18歳~20歳の女性。
確かに、この年齢の女性でしたら便秘に関連してきそうな病気も抱えている割合は低いですし、食事内容もそれぞれ個人の健康意識に大きく左右されると思います。
学生さんなら、実家暮らしか一人暮らしかという生活環境という点にも、食事内容が大きく影響するはずです。
対象者の生活環境がある程度予測できる範囲であるという点、男女差が結果を偏らせないという点においては、この研究の対象選定はメリットが大きいと思います。
逆に、本当に便秘に悩む人が多い中高年世代の本当のところが知りたいけれども、それはわからない点がデメリットでしょう。
いずれも、便秘は直接食事の内容が影響してくるため、今後もつっこんだ研究が進んでほしいなあと個人的には思います。
おわりに
いかがでしょうか。
まず、食べたものが便として出てくるまでの道のりをご理解いただいたうえで、食事と便秘の研究についてご興味もっていただけたでしょうか。
便秘がちな方で、朝食にパンを食べている方、試しにごはんに変えてみてはいかがでしょうか。
大豆製品も良いとのことですので、研究チームが命名した「伝統的日本食型」の食事内容の1つ、味噌汁にはさらに大豆でできている豆腐を積極的に使ってみてはいかがでしょうか。
便秘関連の記事はこちらもどうぞ。
コメントを残す