いまでは公共のトイレのほとんどに設置してあるジェットタオル(ハンドドライヤー)。
ひと昔前のペーパータオルが不衛生だということで、ペーパーを消費しないという点でエコだというメリットとともに、徐々に流行り出しました。
でも、とっくにご存じの方も多いとは思いますが、この機械、大変不衛生なのです。
もちろん今は、不衛生にならないデザインのものもあります。
でも現実は全然導入されていないなというのが私の印象。
今回は、ジェットタオルが不衛生だぞということを証明した研究と、そんな研究が出たにも関わらず改善されない現実と、気を付けたいデザインなどをお話しします。
目次
ジェットタオル(ハンドドライヤー)とは手を乾かすために風が出る機械
いまさら説明も必要ないとは思いますが、ジェットタオル(またはハンドドライヤー)とは、手洗いした後に濡れた手を乾かすために風が出る機械。
エアータオルとも呼ばれています。
デパート・病院・飲食店・高速道路のPA/SA・オフィスビル…今や設置は当たり前と感じるほどまで普及しました。
ジェットタオルの導入の経緯
国内で初めてジェットタオル(当初はエアータオル・ハンドドライヤー)が発売されたのが1960年。
東京エレクトロン株式会社さんの製品が第1号でした。
第1号が画像左上の製品です。
当時の日本では、自分でハンカチを持参する他は手ぬぐいかロールタオルしかありませんでした。
ロールタオルは、ちょっと前によく見かけた、ロールになっているタオルをひっぱり出して拭けるもの。
アメリカで使われていたものを日本にもということで、東京エレクトロン株式会社の創業時の社長さんが初めて国内で製品を出しました。
画像にある第1号は、今のような強風が出て数秒で乾くようなものではなく、「手を感知すると温風が出る」という単純な仕組みだったそうです。
それが、だんだんと国内の衛生面への要求が厳しくなり、除菌もできるように設計されるようになって、それはそれで「除菌をする製品」として形を変え医療機関で普及しました。
一方ハンドドライヤーは、もともとのハンカチ率の高さと、乾く速度が遅い点がネックとなって、当時の普及率は0.1%もなかったといいます。
乾く速度も遅くて、初期のマシンでは約1分…1分もじーっと温風に手を当てていなければ乾かなかったのです。
そりゃそうでしょう、そよかぜのような温風なんですもの、乾きませんよね…
でもそれがだんだんと改良されて、乾燥時間が大幅減の約30秒程度になった時にやっと普及するようになりました。
温風で乾かすという考え方から一変、風の強さと風量で水を弾くという考え方に変わったのです。
水を弾くというアイディアとともに、ハンドドライヤーの呼び名を「ジェットタオル」と称したのは三菱電機株式会社さん。
この後、開発メーカーの間では、いかに速く乾かすか?!が究極の課題でした。
デザインは大きく2種類
ジェットタオル(ハンドドライヤー)のタイプは、シングルタイプとダブルタイプの大きく2通りです。
ポイントは、風の吹き出し口の数。
- 吹き出し口が片面だけの製品:シングルタイプ
- 吹き出し口が両面にある製品:ダブルタイプ
手に当たる風が片方向だけのものか、両面からくるものかによって形が2通りにわかれます。
シングルタイプとはこういう形のもの。
風の吹き出し口が上からの一方通行ですね。
そしてダブルタイプはこちら。
手を入れた時に、前後の吹き出し口から風がくるタイプです。
この形状でも、片面のみに風の吹き出し口がない機種もございますが。
「奥から手前にゆっくり引いていく」との使い方説明が書いてあることもしばしば。
そして、2つのタイプにはそれぞれ特徴があります。
シングルタイプは、
- 吹き出し口が1つなので、ダブルタイプよりも乾燥にかかる時間が長い
- 一概にはいえないが、ダブルタイプより製品が安価
一方ダブルタイプは、
- 吹き出し口が2つある
- シングルタイプよりも乾燥にかかる時間が短い
- 一概にはいえないが、シングルタイプより価格が高い
ということ。
乾燥時間については、平均どのくらいというデータが統計上なかったため、現在のジェットタオル最大大手の三菱電機さんによる試算から抜粋しました。
シングルタイプでも工夫によって乾燥時間が3秒と脅威の速さの製品もありましたが…
ダブルタイプがだいたい5秒~6秒に対して、シングルタイプは9秒~12秒。
確かにこの程度でしょう。
せっかちな私は、シングルタイプが設置してあったら、
- 完全に乾かすのはすぐ諦める
- 順番待ちするようなら当然使わない選択をする
どちらかで、ダブルタイプが設置してあったら、
- 周辺が綺麗で衛生面の不安があまりないならGO
- 順番待ちが1人ならちょっと待つ
- 「奥から手前へゆっくり」を1回やる気持ちの余裕あり
このように、機種によってだいぶモチベーションが変わります。
ちなみに、温風が出るだけのタイプは、即刻横目でスルー。
やはり時間に追われがちな現代の生活の流れに沿うとするならば、「時間の短縮」は需要を増やす大変大きなポイントではないでしょうか。
乾燥時間はつまり乾くまでの待ち時間とも言えます。
この待ち時間について、おもしろい意識調査がありましたのでちょっとご紹介。
時計のCITIZENは”時間”に関連するいろんな調査を実施していて、その中に「ビジネスパーソンの「待ち時間」意識調査」なるものがありました。
2013年に実施されたこの調査によると、病院の待ち時間・電話口の待ち時間・レジの待ち時間・信号の待ち時間など、様々な場面での生活の中での待ち時間に対するイライラが始まる時間について、
ネット接続環境について、スマホでウェブコンテンツにつながるまでの待ち時間は15秒で”イライラ”する人の割合が一番多いことがわかりました。
この、”15秒”が我慢の限界という短さが調査項目中最速だったのですが、ジェットタオルの乾燥時間もこれに類似する点があるのではないでしょうか。
順番待ちがあることも考えると、シングルタイプの9秒~12秒というのはギリギリかもしれませんね。
ランニングコストの比較
シングルタイプ・ダブルタイプと、デザインの違いにひきつづき、ペーパータオルやロールタオルも含めたランニングコストを見てみましょう。
もともとハンドドライヤーは、ペーパータオルの資源がもったいないということで取り入れられた経緯がありました。
下記は、三菱電機の製品の、1日の使用回数に対してかかるコストを一覧にしたものです。
他社の製品のことはわかりませんが、まず、ペーパータオル・ロールタオルと比べてジェットタオルの安価さといったら!!
桁が違うどころの騒ぎではありませんね!
「両面」「片面」は、「ダブルタイプ」「シングルタイプ」という意味です。
両者のコストも、若干ですが、ダブルタイプのほうが高くつくようですね。
コスト削減と、ペーパーレス化によるゴミ削減がジェットタオルのメリットではありますが、コスト削減に関しては、どこからも文句が出ないほど、明らかにコストが異なる。
一方、ペーパーレス化については若干疑問が湧きます。
森林保護だとかゴミの削減だとか言いますが、日本の森林面積の7割がスギです。
スギが大量すぎるせいで、いまや国民病とも呼べる花粉症患者が急増していて、その分の医療費が莫大にかかっているはず。
私も花粉症重症患者なので、切実に思うのは…国内に大量にあるスギを切り取ってしまってほしいということ。
実際、衛生面だけを考えるならペーパータオルが一番なんですよね。
だから私が思うのは、
(実現可能性は全て無視して)スギを伐採してペーパータオルを復活させればいいじゃない!
ということ。
とはいっても時代の流れもあり、今はいろいろ電子化されていて、構造物を建てるための材木も、高度経済成長の時代と比べるとそんなに要らない。
だから、残念ながら、ペーパータオルが再び普及することも、画期的なアイディアでスギが一気に減ることもないのです。
ジェットタオルへの疑問から検証する研究は成立
さてではそろそろ本題に入りたいと思います。
これまで、手洗いの後の”手を乾かす”ためのサービスは、ペーパータオルやロールタオル、そしてハンドドライヤー、ジェットタオルと、時代と共に進化してきたわけですが、
保健医療の水準が上がると同時に、生活の中のいろんな場面の衛生環境に目が向き、「これまで普通に使っていた〇〇は実は不衛生だった!」といったようなことが明らかになり始めたのです。
ジェットタオルもその一つ。
利用者の素朴な疑問から、衛生状態の検証をする研究が成立したのです。
ジェットタオルについての利用者の素朴な疑問
身の回りの清潔さに普段から敏感な方は、感じたことがあるかもしれませんが。
公共のトイレに備えてあるジェットタオルについて、
- 受け皿に水滴がたまっているけど…
- 水が飛び散って、ジェットタオル本体もその周辺も水滴だらけ…
- トイレ内で強風を全面に受けるのに抵抗あり…
- 子どもが遊んじゃっているけれど…
- だいぶ古いジェットタオルだけど大丈夫…?
こんなことを思った経験はありませんか?
私は割と、ジェットタオル本体や周辺に水滴が飛び散っているのを見るだけで「なんだか汚らしい」と思えてしまって、そんな時は使わない選択をしています。
メンテナンスやトイレ内の清掃が行き届いていて、機種も新しく見えるなら「使おうかな」という気がたまに起きる程度。
やはりどこかで不安があるということなのですよね。
この不安、同じように感じた研究者がいました。
で、衛生状態を調査したのです。
ジェットタオルの不衛生を証明した研究
ではさっそくご紹介しましょう。
こちらが論文の原文になります。
この研究は、3種類の手を乾かす方法が、どれだけの病原微生物を飛散させてしまうのかを明らかにするものでした。
3種類の方法とは、
- ペーパータオル
- ハンドドライヤー(WORLD DRYERのLE48)
- ジェットタオル(ダイソンのAB01)
この3つです。
WORLD DRYERのLE48とはこちらの、温風が出るタイプのハンドドライヤー。
ダイソンのAB01とは、下記の機種で、風圧で水を弾きとばすやつ。
実験前に、手に大量のウイルスをつけて、3通りの方法で乾かしたのです。
その結果、ウイルスが飛散した量が多い順に、
- ジェットタオル(ダイソンのAB01)
- ハンドドライヤー(WORLD DRYERのLE48)
- ペーパータオル
となりました。
具体的には、
- ジェットタオルはハンドドライヤーの60倍
- ジェットタオルはペーパータオルの1300倍
のウイルスを飛散させたということでした。
実際、乾燥機を使う場面は、「手を洗った後」のはずなので、ウイルスが大量に手についた状態でウイルスの飛散量を比較するのは疑問が湧くかもしれません。
でも、この実験によって、ウイルスが手に残っていたら、ジェットタオルやハンドドライヤーの場合は確実に飛散してしまうことがわかったのです。
だからこの論文の著者は、ハンドドライヤー・ジェットタオルは不衛生だから、医療関連施設や食品関連施設といった衛生面に特に注意が必要な場所で使用するのは適当ではないと言っています。
研究を機に衛生面の真実が出た
そんなわけで、小さな研究はたくさんあったものの、この研究がドーンと出たことで、それまでスルーされ続けてきていた”衛生面の真実”に目が向くようになりました。
医療機関における最高の衛生配慮
この研究を含め、多くの研究で、使うならペーパータオルが一番良いとされています。
でも実は、ペーパータオルにも問題点が。
使い捨てのペーパータオル、使った後はゴミになりますよね。
これが大変不衛生なわけです。
ということで、「結局は各自持参してもらうハンカチが一番清潔!」と結論づけて、その旨を周知している医療機関も多くあるんです。
岡山県にある倉敷中央病院もそう。
現場では、ジェットタオルの便利さをよく知っている利用者さんから、設置の要望や、せめてペーパータオルをといった声も上がるそう。
それに対して、下記のように衛生面での不安がある旨をきちんと説明しています。
私の勤め先の病院もそうですが、大きな病院で、感染管理がしっかりしているところでは、トイレにハンドドライヤーやジェットタオルはおろか、ペーパータオルも設置してありません。
ただ、利用者への配慮という点において、100歩ゆずってペーパータオルを設置しているところは多く見受けられます。
でも一番注意したいのが、病院なのにジェットタオルやハンドドライヤーがあるところ。
これはどの診療科でも関係ありません。
身体に何等かの病気や症状がある場合にかかるのが病院。
具合が悪い状態の身体は免疫力が通常よりも低下しています。
免疫力が低下しているということは、ちょっとの病原微生物でも感染しやすい。
だから、かかりつけの病院が未だにジェットタオル・ハンドドライヤーを設置しているのなら、ちょっとここの病院衛生管理大丈夫かな…と一歩引いてもいいかもしれません。
設置の裏側
この度、ジェットタオルは不衛生だ!とする研究が有名になったことで、衛生面の配慮を最優先したいと堂々と主張できるようになりました。
しかしながら、先ほどのように、「不便だから設置してほしい」という利用者からの要望や時にはクレームがあがるところもあるそうです。
衛生面の配慮のため!という事実が浸透しきれていない公共のトイレなどでは、「サービスが悪いぞ!!」とのクレームにつながる。
だから、やむなくジェットタオルを再設置してしまっているところも実はあるそう。
もしも、記憶にある場所で、一度は消えたのにまた復活した!とか、ずっと設置したままだとか、そういうところがあれば、そこには裏の事情があるのかもしれません。
もちろん、最近のジェットタオルは衛生面にも注意されて設計されています。
微生物を感知するセンサーつきの機種もあるほどですからね。
だから、もし使用するなら気をつけたいのは、衛生面の問題がない機種かどうかというところですね。
利用者ができる予防策
現在、衛生面の問題から、それまでの「水滴を吹き飛ばす」タイプのジェットタオルではなく、「水滴を全て吸引する」という考え方から設計された機種が推奨されています。
クレナという機種は、数ある吸引式の中でも優秀だとされています。
しくみは、風の吹き出し口から風が出てくるのは変わりませんが、風の向きが下向きで、水滴を吹き飛ばした先が機械の中。
病原微生物がきちんと捕獲されるわけです。
でも、まだ国内には吹き飛ばし式のジェットタオルも数多く設置されているのが現状です。
だからどうするか。
吸引式を見分ける目を持ちましょう。
吸引式の特徴は、吹き飛ばさず吸引したいってことで、箱型で中央に手を入れる穴があります。
見た目、水滴が外に出ないデザインだなと思えたなら、使って大丈夫なやつです。
とはいっても、どこに吸引式があるかわかりませんし、体調がすぐれず感染しやすい状態の日は特に、ハンカチを持ちあるくことを忘れずに!
ハンカチを忘れてしまったけどペーパータオルを発見、そんな時は、ごみ入れに手を近づけすぎず、使用済みペーパータオルは、ちょっと離れ気味なポジションからポイっと捨てましょう。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
日本では、オリンピックが間際に迫っているため、感染予防が強化されていて、公共の場における衛生環境の不安を解消する動きが加速しています。
とはいえ、その動きもまだまだ途上の最中。
公共のトイレにおいて自身の身を病原微生物から守るためには、ハンカチの常備・吸引式ジェットタオルを見分ける目を養いましょう!
関連サイト:https://mirai123.me
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