日本は世界一の長寿国。
医療技術の発展とともに寿命はどんどん延びています。
でもその一方で、認知症に代表される高齢期ならではの疾患にかかる人がとても多くなりました。
認知症のメカニズムから予防の方法、認知症患者との生活などのさまざまなテーマは現在多くのメディアで取り上げられています。
今回は、最新研究から、認知症予防のために意識できるリスク要因を紹介します。
認知症とは
認知症はたくさんある精神疾患の1つです。
加齢などのさまざまな原因で脳細胞がしんでしまったり、働きが鈍くなってしまうことであらわれる症状です。
主な行動に係る症状と心理症状は、中核症状(ちゅうかくしょうじょう)とよばれるものが下記の4種類あります。
- 記憶障害:ものごとを覚えられなくなったり、思い出せなくなる
- 理解・判断力の障害:考えるスピードが遅くなる。家電やATMなどが使えなくなる
- 実行機能障害:計画や段取りをたてて行動できない
- 見当識障害:時間や場所、やがて人との関係がわからなくなる
そして厚生労働省で出しているその他の主な症状がこちら。
- 徘徊:外に出て行き戻れなくなる
- 妄想:ものを盗まれたなど事実でないことを思い込む
- 幻覚:見えないものが見える、聞こえないものが聞こえるなど
- せん妄:落ち着きなく家の中をうろうろする、独り言をつぶやくなど
- 抑うつ:気分が落ち込み、無気力になる
- 人格変化:穏やかだった人が短期になるなどの性格変化
認知症統計
こちらは、2012年の認知症患者数と、その後の認知症患者数の予測です。
日本は高齢化のスピードが世界一速い国です。
2025年には約700万人となり2012年のおよそ1.5倍に増える予想となっています。
出典:出所:厚生労働省「新オレンジプラン」
2025年には、65歳以上の高齢者のうち5人に1人が認知症になる計算です。
また、認知症患者の社会問題はこんなところにも。
症状の1つである「徘徊」。
よく介護施設などでも、入所の高齢者の方がふらっと出かけて戻ってこれず、いわゆる迷子になることが問題となります。
お住まいの地域でも、時々「〇歳の男性〇さんが、〇月〇日〇時ごろから行方が分かっておりません。背格好や特徴は…」といった放送がスピーカーから流れるのを耳にしたことがある方いらっしゃいませんか。
認知症の方の行方不明は年々増加しています。
こちらは、平成23年(2011年)から平成27年(2015年)までの行方不明者の統計です。
出典:警察庁生活安全局生活安全企画課「平成27年中における行方不明者の状況」
※最新の統計情報「平成28年中における行方不明者の状況」についての資料はこちら。
全行方不明者の原因・動機のうち、最も多いのが「その他」を除き「疾病関係」の22.4%。
ついで「家庭関係」の19.6%と、何やら不穏な様子も気になりますが…
疾病関係の原因のうち、「認知症」は全体の14.9%にものぼるのです。
なお、このときの「認知症」とは「認知症又は認知症の疑いにより行方不明になった旨の申出のあった者」であるため、認知症の診断を受けていない人も含まれています。
とても多いですよね。
ちなみに、「その他」は、遊び癖や放浪癖等が含まれているそうです。
年間でこんなに行方不明になって、ちゃんと見つかっているのか気になります。
ここに興味深い研究結果があります。
認知症で行方不明になった高齢者の生存率というもの。
調査は認知症高齢者で行方不明になったのち死亡で発見された388名、そして生きて発見された388名の計776名を対象に分析しました。
すると…
- 当日発見:生存率82.5%
- 翌日発見:生存率63.8%
- 3~4日目発見:生存率21.4%
- 5日目以降発見:生存率0%
ということが明らかになったのです。
死因は事故や脱水症状が多いとのこと。
当日発見されたとしても、行方不明になった方の約2割は亡くなってしまっています。
その後日がたつにつれて生存率は低くなり、5日で0%…
亡くなった人の4割以上は「軽い認知症」だったそうです。
だから、認知症にかかっている方が「あれ、いない」という時は、一刻も早く捜索願を出さないといけません。
ちなみに、スピーカーによる迷子放送について。
その後の捜索で見つかった場合は「無事発見されました」とアナウンスされます。
この時の「無事に発見された」とは、言葉通り無事に見つかったということ。
一方アナウンスで「発見されました」だけの時もあります。
お察しの通り、「(無事ではないが)発見されました」ということ。
つまり、死亡していたか、無事ではない重症な状態かいずれかの場合だそうです。
ちょっぴり怖いお話しになってしまいましたね。
認知症予防に係る最新研究からわかった9つのリスク
さてではここから本題。
2017年7月20日に、医学雑誌の最高峰であるLancet(ランセット)に、認知症予防の興味深い研究結果が採択されました。
認知症のうち3件に1件は、生活習慣などを意識的に行うことで予防できるというのです。
認知症は予防できる
論文の著者であるジル・リビングストン教授は、この研究が発表された国際アルツハイマー病会議(AAIC)でこう話しました。
「認知症の診断は人生の後半でされるが、認知症の第一歩となる脳の異変は何年も前から始まっている」
そして、認知症になるリスク要因として、
- 低学歴
- 聴力の低下
- 喫煙
- 運動不足
をあげていて、認知症の予防には生活スタイルが大きく影響するとのことです。
つまり、認知症になるずっと前の段階で、これらのリスク要因を排除した生活を送ることで、確実に予防できる人がいるというわけです。
研究では、認知症予防が実現することで、認知症の方本人やその家族・その他のサポート体制等すべての生活を改善できると指摘しています。
では、研究から明らかになったことを列挙しますね。
- 中等教育を修了しないのは大きなリスクにつながる
- でも大人になってからでも学び続けることで「認知的予備力」が高まる可能性がある
- 中年期に聴力が低下すると、通常周囲から受け取れたはずのたくさんの情報が得られなくなり、社会的にも孤立し、うつになる可能性も高まる
- 心臓に良いことは脳にも良い
- つまり、禁煙・運動、健康的な体重をキープすること、高血圧・糖尿病の治療などは全て、循環器系の疾患やがんはもちろん、認知症のリスク低下にもつながる
- 運動する習慣も認知症リスクを低下につながる
- 食事・飲酒も認知症リスクの低下の重要な要素になり得る
中等教育とは、日本でいうところの中学・高校のことです。
学歴と疾患の関連という点では認知症にも当てはまるということですね。
そんなこと今更言われてももう遅いよという方、遅くないです。
大人になってからでも脳を働かせることが大事。
ここに出てきた「認知的予備力」とは、知能の蓄えのことです。
言い換えると、活発に活動したことのある神経細胞の全体量のこと。
蓄えの量が多ければ、もしも老化や認知症の影響で、熟練された神経細胞が脱落してしまったとしても、まだまだ予備があります。
つまり「認知的予備力」が多ければ多いほど、認知症の症状が出るまでには相当な年月がかかるということ。
脳をたくさん働かせることで、症状が出るのを遅らせることができるというわけです。
脳を働かせる=たくさんの情報量を吸収するということにつながりますが、耳が悪くなることは情報量減につながりますよね。
そして心臓に良いことは認知症にも良いということ。
これはとてもクリアでわかりやすいのではないでしょうか。
1つ1つは取り上げませんが、心臓に良いこととは、普段の食事・運動・喫煙・飲酒などの生活習慣で「良い」とされているものは大体該当します。
認知症の予防可能な要因のリスクの度合い
研究では、認知症予防につながるリスクを明らかにしたばかりでなく、それぞれのリスクの割合も計算しました。
それがこちら。
- 中年期の聴力低下 9%
- 中等教育の未修了 8%
- 喫煙 5%
- うつ 4%
- 運動不足 3%
- 社会的孤立 2%
- 高血圧 2%
- 肥満 1%
- 2型糖尿病 1%
なお、これらのリスク割合を合計すると35%になります。
残りの65%は自分自身の努力だけでは変えられないリスクではあります。
でも、単純なたし算では疑問も残りますが、つまりこれは、自分の生活習慣への意識次第で予防ができるリスクが35%もあるということです。
関連する生活習慣病などに関連する記事はこちらもどうぞ。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
これだけ日常に直結した具体的なリスクが明らかになると、じゃあ気を付けてみようかなと思われる方も多いのではないでしょうか。
そして、およそ関連があるとは思えない、認知症と心臓に関連する生活習慣病。
生活習慣病に気をつけていれば、ついでに認知症も予防になるとは一石二鳥ですよね。
おもしろいと思ったのが、聴力の低下がリスクになるということ。
普段生活していて耳の健康に気をつかう方はそうそう多くはないと思います。
でも耳がよく聞こえる状態をキープするためにできることとは何があるでしょう???
また別の機会に調べてみることにします。
参考:
Livingston et al. Lancet. Dementia prevention, intervention, and care. Published: July 20, 2017.
菊地 和則et al. 認知症の徘徊による行方不明死亡者の死亡パターンに関する研究;日老医誌 2016;53:363―373
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