春に注意したい感染症は、第1位ロタウイルス感染症、そして第2位が溶連菌感染症です。
インフルエンザはようやく終息、シーズン中はだいぶ流行しましたよね。
さて、インフル・ロタはよく耳にするけど、溶連菌てなんでしょう。
通常こどもがかかりやすい病気なので、私も感染を学ぶようになってから&子どもができてから身近に感じるようになったのですが。
今回は、溶連菌感染症に関する基本知識と今現在の流行状況をお話しします。
目次
溶連菌感染症とは
溶連菌感染症とは、正式にはA群溶血性レンサ球菌咽頭炎。
ダラダラ長く覚えにくいので、正式名称からの略字で”溶連菌”との呼び名が広まっています。
A群とは、血清型のこと。
溶血性レンサ球菌とは、溶血性でレンサ型の細菌ということを指します。
2018年1月からの流行状況
はい、今シーズンも一気に流行してきています。
こちらは、東京都感染情報センターによる現在までの流行曲線です。
赤太線が今年の1月からの定点流行人数。
定点というのは「1つの病院につき」という意味です。
このグラフでは、1週間ごとに1つの病院で感染者を治療したという記録を平均した数値を表しています。
現在は第15週(2018年1月の1週目から換算して)。
約2.3人くらいが、1週間のうちに1つの病院で溶連菌感染症の治療をしたということになります。
出典:東京都感染症情報センター 定点報告疾病集計 A群溶血性レンサ球菌咽頭炎
この溶連菌感染症、グラフをみてもお分かりかと思いますが、その年の第20週~23週あたりに流行がピークになるのが特徴です
2018年の20週が6月4日~10日の週です。
つまりちょうど初夏にあたります。
先週まで沈黙を保っていた流行は、14週を過ぎて一気に増えてきました。
グラフからは、過去2015年(ピンク)に大流行した様子が見て取れ、今年はどうなるか今の曲線からは予想がつきませんが、いずれも今後2か月ほどは注意が必要ということですね。
さて、そんな溶連菌感染症の原因や感染経路につきましてみてみましょう。
原因菌は細菌
溶連菌感染症は病原微生物が細菌で、抗生物質が「アモキシシリン製剤」とよばれるもの。
この、細菌かウイルスか?はよく取り上げられる話題ではありますが、別にどっちがどうというわけではありません。
インフルエンザや風邪症候群、ノロウイルスなどの感染症の原因は全て微生物。
そして、病原となる微生物は、ウイルスと細菌と寄生虫にわかれますよということ(例外もあり)。
で、風邪やインフルエンザ・ノロウイルス・ロタウイルスなど…日本でよく感染が話題となる感染症の多くがウイルスが病原です。
細菌が原因のものは、今回取り上げた溶連菌を含めてそれほど日本ではなじみがないかもしれません。
細菌が原因の感染症は、有名なところだと薬剤耐性菌や病原性大腸菌O157なとでしょうか。
日本ではほとんど発症例がないコレラも赤痢が細菌が原因の感染症。
もちろん個人差はあるものの、発症したら重度になることが多い印象ですよね。
ちなみに、ウイルスと細菌はどう違うのという疑問について軽くご説明しましょう。
シンプルですが、「〇〇ウイルス」と”ウイルス”と名がつく感染症は、ウイルスが原因、「〇〇菌」と”菌”と名がつく感染症は、細菌が原因です。
「インフルエンザ菌」というのは俗語で、そんな菌はありません。
ただしくはインフルエンザウイルス。
ウイルスも細菌もどちらも微生物ではありますが、細菌はウイルスよりも約10~100倍も大きく、単独で生きることができます。
だから、体内から外に出てもそう簡単に死滅しません。
そして、細菌は抗生物質が特効薬になります。
抗生物質は、細菌微生物を破壊することができる薬なのです。
溶連菌感染症にも有効な抗生物質があって、感染がわかった時は病院で処方されるでしょう。
一方、ウイルスは細胞とくっつくことで増える(=生きる)ため、身体から外に出てしまえば死滅します。
そして、ウイルスには万能な対抗薬が存在しません。
インフルエンザは例外で、ウイルスが増えるのを抑制する抗インフルエンザ薬(タミフル)がありますよね。
でもあくまでも、「ウイルスが増えるのを抑える作用がある薬」なので、増えないようにするから、あとは自分の免疫力で治してねということなのです。
ノロウイルスがわかりやすいですよね。
発症したら、脱水症状になるのだけ気をつけて、あとは吐ききる・便を出し切るしかありません。
病院で処置を受けたとしたら、それは点滴(=ポカリのような水分)か整腸剤(胃腸の働きを促進)です。
特効薬はないのです。
デング熱も同様。
蚊に媒介するウイルスが原因の感染症で、途上国でよく問題になります。
放っておいたら致死率は20%!
体内の水分がなくならないよう適切に医療的管理をしていれば、致死率は1%以下まで下げられます。
でも特効薬はなく、かかったら治るまで自己治癒力に任せる他ありません。
一般的な風邪もウイルスが原因です。
発症していない保菌者は10%
実はこの溶連菌感染症、発症していなくても菌が体内にいる人が割と多くいます。
保菌していたも症状が出ない人は、いわゆる保菌者と呼ばれますね。
保菌者はこどもに多く、幼稚園や保育園など、こどもが集団生活をしている場所では、喉に菌を持っている割合が5%~10%も存在するといわれています。
さらに、保菌者が1人発症した場合は、周りのこどもに感染し、保菌者は数10%に増えてしまいます。
もう少しわかりやすくいうと、100人が集団生活している保育園で1人が発症すると、その周りにいた子数人にうつって発症、数人が発症しないものの保菌者となります。
そして保菌者の30%は、なんと1か月以上も体内に溶連菌を保菌し続けるのです!
正しくは、自己治癒力で完治させるまで1か月以上かかるということです。
つまり、発症者が出れば出るほど保菌者、つまり発症ハイリスク者が増え続けてしまうという悪循環なのですね。
発症した時の症状
溶連菌に感染して発症すると、38度~39度の熱と、のどの痛みが特徴的に出ます。
でも3歳未満の小さいお子さんは熱があまりあがらないことが多いそうなので注意が必要です。
そのほか代表的な症状がこちら。
- 発熱
- 体や手足に小さくて紅い発疹が出る
- 舌にイチゴのようなツブツブができる:別名「イチゴ舌」
- 扁桃腺が腫れる
- 頭痛
- 腹痛
- 首すじのリンパ節の腫れ
風邪かも?と症状が混乱しがちの他の感染症とちがうところは、咳・鼻水が出ないこと。
症状が落ち着いてくるころには、手足の先の皮がむけるなどの症状がありますが、放っておけば治ります。
口の中が真っ赤に腫れるので、ご家庭で素人がみても割と一発で「あ、これは溶連菌か!?」と疑いがもてます。
発疹も見るからに!!というかんじです。
でも小さい子の発疹は他の感染症の可能性もありますので素人診断はせず、かかりつけの病院で検査してもらい、正しく効く薬で早めに完治させることが大事。
発疹は虫刺されやかぶれの他に、このような感染症による症状であることが多いです。
- 麻疹(はしか)
- 風疹(三日ばしか)
- 水痘(水疱瘡、みずぼうそう)
- 突発性発疹
- ヘルパンギーナ
- 手足口病
- 伝染性紅斑(リンゴ病)
- 伝染性膿痂疹(とびひ)
こんなにあるのです…
でも、これら全ての症状を理解し診断できることはさほど大事ではありません。
必要なのは、発疹や38度以上の発熱が続くのは何らかの病原微生物が原因である可能性がとても高いので、「大丈夫」とたかをくくって出歩いて感染を拡げないように、また、完治を早めるために、きちんと医者にかかることが大事なのです。
治療方法と溶連菌ならではの注意事項
抗生剤治療による完治が重要
溶連菌感染症の病原微生物は細菌なので、抗生物薬の処方により細菌を退治することができます。
抗生剤は10日間服用して治療するのが一般的です。
ここで重要なのが、処方された薬をちゃんと全部飲み切ること。
薬嫌いのお子さんは、10日間の服用は親が発狂したくなるほど大変だと思います。
でも溶連菌治療に関しては、途中で投げ出さずに根気よく工夫して全部飲みきる必要があります。
大人でも10日間の服用は大変ですもんね。
ではなぜ飲み切らないといかんのか。
完治させないと再燃する
溶連菌感染症は完ぺきに治さないと、再発したり、合併症を起こすことが怖いところ。
抗生剤は、体内の細菌の数を一気に減らしてくれます。
細菌が減ると、熱がひいて発疹もひいて、見た目上元気になるのに1日~2日ほどしかかからないでしょう。
細菌の量が減るということで、人に感染する可能性も格段に減ります。
でも…
溶連菌はちょっとでも体内に残っていると、再燃(再発)しやすいといわれています。
また、残っている細菌に対するアレルギー反応や免疫反応によって、腎炎や紫斑病といった別の病気を引き起こすことも報告されています。
具体的な数値でお伝えすると、
- 咽頭炎を発症した子どものうち10~20%が1年以内に再発
- 1ヶ月以内に再発した人の90%は、1回目に完治させず除菌しきれなかったことが原因の再燃
です。
くりかえしますが、抗生剤を飲めば、すぐに体調は改善します。
でも体内の細菌は1日~2日では全滅しません。
再発を防止するために、または重篤な合併症を防ぐために、根気強く10日分服用することが大事です。
合併症の種類は
溶連菌感染症による合併症にはこのようなものがあります。
- 中耳炎・気管支炎・リンパ節炎
- 急性腎炎
- リウマチ熱
- アレルギー性紫斑病
それぞれの症状については割愛しますが、たとえば、病院にいって溶連菌感染症だと診断され、抗生剤を処方された。
薬を飲んで安静にしていたが、1日経っても熱が引かなかったり他の症状がおさまらなかったり。
そんな時は「なんか変だ」と思ってすぐに再受診してください。
処方された抗生剤は溶連菌のみに効く薬なので、それで症状がおさまらないということは、他の合併症にかかっている可能性があるからです。
溶連菌感染症による出席制限
溶連菌感染症は大人もかかるケースがありますが、各段にこどが感染することが多い病気です。
そこで気になるのが、学校や保育園・幼稚園の出席制限。
感染症にかかった子が登園・登校すると、他の子たちにうつしてしまいパンデミックを引き起こすことも。
だから、感染症法による法律で、この感染症にかかったらどのくらいの期間お休みしてくださいねというのが決まっています。
溶連菌感染症も、感染症法によって、出席制限が定められている感染症です。
でも、具体的に何日と決まっていません。
だからそこは医師の判断によりけり。
だいたいどこのクリニックでも、抗生剤服用後1日~2日に症状がおさまって(=感染力がなくなって)、登園・登校してもいいですよとされています。
でも、症状の強さや回復度合いなどで、お休みの日数が医師によって変わってきます。
溶連菌感染症の場合は、その回復度合いを確認するために、最初の受診から1日~2日後、または熱がひいてから再受診するよう指示を受けるでしょう。
そこで検査をして、細菌が減っているのを確認できて、これなら人にはうつさないとされたら登校・登園がOKとなります。
ちなみに感染症法では、抗生物質1~2日内服後、発熱や発疹が治まり元気があれば、登校・登園してもかまわないとされています。
大人の場合は自己判断ですね。
医療機関への勤務の場合は、感染予防担当に確認のうえ出勤(インフル・ノロのみのケースが多いですが念のため)、お勤め先によっては勤務制限を設けているところもあるかもしれませんので、それも確認のうえ出勤しましょう。
どうせ38度以上の高熱がある日は、出勤可否を問うまでもなく、仕事ができる体調ではないと思いますが…
はいでも繰り返しになりますが、登校・登園・出勤…元気になっても抗生剤はきちんと全部飲み切りましょう。
予防は咳エチケットが基本
予防は、風邪と同様、一般的な咳エチケットのみ。
溶連菌感染症は、咳やくしゃみによる飛沫感染が感染経路です。
子ども同士では遊んでいる間に、感染者の唾液が手について、それをなめてしまって…
ということや、くしゃみを浴びてしまった…という場合や、感染経路は多重に存在すると思います。
全てを防ぐことは困難ですが、リスクを減らすために手洗い・うがいを徹底させることが大事です。
ちなみに、溶連菌感染症予防の方法として、事前に抗生剤を予防的に服用することというのが効果があるかないかという議論になっていて、未だに結論は出ていません。
症状が出ていない状態で薬を入手することがそもそも困難なので、今の状況でしたら現実的な予防策ではありませんが、将来的には「発症リスクを抑える」手段が何かしら明らかになるかもしれませんね。
おわりに
出産後の睡眠不足からくる体力と免疫力の低下によって、ここ数年、インフルや胃腸炎など、感染症の代表にはお世話になってきましたが、溶連菌感染症はまだ未経験。
でも集団生活している子供の保菌率は高く、そんなに驚く細菌ではないのですが、これ発症したらめんどくさそうですよね。
発疹によるザワザワした気持ち悪さや、喉の痛みで食欲減退、小さい子供なら機嫌が悪くなること必至です。
10日間の服用も、どんな苦行だとげっそりすることでしょう。
さて薬嫌いのお子さんには、こんな工夫がありますよ。
- ジュースに混ぜちゃう
- アイスをつくる際に混ぜて・アイスと一緒に
- ゼリーにしておやつにあげちゃう
- チョコと一緒に
- スポイトでビュっと流しいれちゃう
私は以前、ジュースでいつも作っているアイスを、薬インで大量に作り置きして、朝晩の服用を完遂できたことがあります。
他の方法は何をやってもダメでしたが、アイスインは最高にはまりました。
きっとその都度工夫が必要で、本当に苦行だと思いますが、いずれかの方法で成功することを祈っています。
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