みなさん「ロコモ」という言葉をご存じでしょうか。
ロコモとは「ロコモティブシンドローム」のことで、体の運動機能が低下している状態を指して言います。
今この言葉、じわじわと流行ってきており、病気の予防や介護の予防のためのロコモ予防に関心が集まっています。
今回は、まだまだ広く知られていないロコモとは!?の簡単な説明から、ロコモ予防のために今すぐできる運動方法をご紹介します。
目次
ロコモの基本知識
厚生労働省による調査によると、現在ロコモの認知度は国民全体の17%程度です。
そしてこのうち60代以上の方の認知度は30%。
ロコモが介護予防に直結するのが高年齢層の認知度が高い理由です。
ロコモとは
ロコモとは、2007年に日本整形外科学会により提唱された「ロコモティブシンドローム」の略で、日本語で「運動器症候群」のことです。
日本の高齢化に伴って、加齢による運動機能の低下とそれが原因で起こる介護を予防し、健康寿命を延ばそうという最近の動きの1つです。
政府は、メタボと同様に、その認知度を高めようとさまざまなキャンペーンをうちだしています。
この運動器症候群とは、どのような状態のことを指すのかというと、
筋肉・骨・関節・軟骨・椎間板などの運動器のいずれか、または複数に障害が起こり、「立つ」「歩く」といった機能が低下している状態。
この状態が悪くなると、日常生活にも支障が出てしまったり、何らかの疾患につながったり、加齢に伴って介護が必要になってしまうこともあるのです。
出典:日本整形外科学会公認 ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト
運動器に障害が起こると、痛みや筋力低下、バランス能力が低下します。
そしてそれらが原因で、立つことや歩くことが難しくなってしまいます。
「立つ」「歩く」この動作が上手くできなくなることは、移動する機能が低下することを意味します。
そして移動機能の低下は生活活動や社会参加の制限へつながり、高齢期であれば、生活するのに介護が必要となるケースにもなりかねません。
医療が進歩し、長寿社会の中で元気な高齢期をおくるためには、ロコモ予防が健康寿命の延伸のための鍵といえます。
健康寿命とは
健康寿命とは、日常的に介護を必要とせずに自立した生活ができる生存期間のこと。
簡単に言い直すと、病気があったとしても人の手助けが必要なほどではなく、元気に生きることができる期間のこと。
日本の健康寿命は世界トップクラスで、2012年の発表では男性が70.48歳、女性が73.62歳でした(参考:厚生労働省:健康日本21(第2次)の推進に関する参考資料(案))。
つまり日本人の高齢者は、多くの方が高齢期を元気に過ごしていることです。
そして今、この健康寿命は流行りで、日本は世界の長寿大国の先進国だし、病気を予防してもっともっと元気に長生きしようという社会の動きがありますよね。
予防医学が流行っているのも同じ理由ですが、この動き何かというと、一番目指すところは医療費抑制なのです。
”予防”が社会保障制度を守る
日本は国民皆保険制度のおかげで、例えば何かの病気になった時に病院で治療を受けて支払う医療費は全体のうちたったの3割だけで、残りの7割は国民から集まった税金で支払われています。
これがいわゆる「窓口3割負担」というやつです。
国民皆保険制度は、医療サービスを国民皆が利用しやすいように、所得の高い人ばかりに集中したりなど貧富の差によって医療サービスを受けられない人がなるべくいないように、そんなことが目的の1つです。
ただ、リーズナブルに利用しやすいがために、医療費赤字が増えてしまっている問題もまた…
日本人はちょっと風邪をひいただけですぐ病院に行く習慣があります。
病院にかかる人が増えれば増えるほど、国が負担しなければならない医療費が膨れ上がってしまうという状況なのです。
これからまたどんどん高齢化が進んでいくため、医療費がこれ以上膨らむのをなんとか食い止めたい、ということで考えられた解決策の1つが、”病気予防で健康寿命を延ばす”こと。
また、病気を未然に予防することは、高齢期の生活の質(QOL)の向上や、労働生産性も向上するとも考えられます。
でも一方で、「健康寿命が延びてもいずれは病気にかかって病院に行くのだから、どっちにしても医療費はかかるのではないか?つまり健康寿命を延ばすことは医療費抑制には直結しないのではないか?」とこんな疑問を持たれた方もいるはず。
実はこれについては調査がすでに行われていました。
厚生労働省の調査結果によると、健康寿命の延びが平均寿命の延びを上回った時、(要介護2以下の人の状況にもよりますが)2011年~2020年で最小約2.5兆円、最大約5.3兆円の医療費・介護費が削減されると推定されているのです。
つまり、健康寿命を延ばすことは医療費削減につながるということ。
そして今や、健康寿命延伸産業が1つの産業として成り立つほど、ヘルスケア関連事業が流行る時代なのです。
ロコモの予防
というわけで、これからどんどん認知度が上がってくると予想されているロコモについて、少しご理解いただけましたか。
現在その認知度は17%程度ですが、政府は、「ロコモ」を今後もっと広めていこうと計画しています。
ロコモ予防が重要視されるようになったきっかけは、平成25年度の国民生活基礎調査の結果からでした。
運動器の障害が介護の原因第1位に
毎年行われている国民生活基礎調査では、世帯数や人員数、所得や健康状況に加えて介護の状況についても調査しています。
介護に関する調査のなかで、「要支援・要介護になった原因」という項目があります。
この時の調査結果から、それまで介護になる原因は脳血管疾患が第1位であったのが、運動器の障害が逆転して第1位になったのです。
参考:平成25年度国民生活基礎調査の結果から「ロコモ チャレンジ!推進協議会」によって作成
要支援・要介護とは、生活を送るにあたって支援を必要とする健康状態、また介護を必要とする健康状態のことです。
どの程度の身体の機能がそれらに該当するのか、基準が設けられていて、”認定”を受けると必要な支援や介護サービスを受けることができるのが介護保険によるシステムです。
詳しくはこちらもご参考に。
そんなわけで、それまで介護になる原因は、いわゆる”生活習慣病”だったのが”運動器の障害”にとってかわられ、介護予防のためには、運動器の障害を予防することが重要だ!という流れになったわけです。
厚生労働省の健康対策の変遷
国民の健康のための政府の取り組みは昭和53年ごろから本格的になりました。
最初の目標は、生涯をとおして健康に生きること。
赤ちゃんから高齢者までのすべての世代で健康診断を行ったり、健康に関する保健指導ができる場所として各地に保健センターなどを整備したりする動きから始まりました。
そして、健康に欠かせない3要素、「栄養」「運動」「休養」これがだんだんと着目されていったのです。
その後、昭和63年ごろから「アクティブ80ヘルスプラン」という取り組みが始まりました。
これは、80歳になっても身の回りのことを自分でできるようにしたり、社会参加もしようというのが目標。
ちなみに、昭和60年頃の平均寿命が、男性74歳、女性が80歳でしたので、思い切った目標設定だったのではないでしょうか。
アクティブ80ヘルスプランでは、3要素の中でも推進率が低かった「運動」にスポットが当てられました。
具体的に力を入れたのが、健康づくりのための運動プログラムを作成したり指導できる人材の育成。
厚生労働省の認定事業として、健康運動指導士の養成事業が創設されました。
健康運動指導士とは、
「個々人の心身の状態に応じた、安全で効果的な運動を
実施するための運動プログラムの作成及び指導を行う者」
ということで、認定試験に合格することで得られる資格です。
スポーツクラブや、学校の体育指導や病院でリハビリ指導を行ったり、介護施設や保健所など、様々な場所で活躍しています。
「運動」の後は、「栄養」にも力が入れられました。
具体例をあげると、適切な栄養所要量を普及させるための、外食の栄養成分表示。
今では当たり前に目にすると思いますが、お店で売っているお惣菜や食品などのパッケージや広告に100gあたりのエネルギーや栄養成分の量を記載するというもの。
100gというのは、1人1食の目安とされています。
出典:東京都福祉保健局 外食料理栄養成分表示活用パンフレット(都民の方へ)
こんな取り組みをはじめとした栄養、運動、休養のバランスを保つための取り組みが進んだころ、2003年から始まったのが「健康日本21」。
生活習慣病が問題になってきたことから、病気の予防のために健康の維持のための目標が設けられました。
当時「メタボリックシンドローム」はまだ知られていなかったため、その言葉の普及が最初の10年間の計画に盛り込まれていました。
現在ではキャンペーンの効果があって、9割まで認知度が上がっているといいます。
また、運動や食事についてもそれぞれ目標が立てられ、例えば「1日1万歩を目標に」とか、食事は食事バランスガイドを参考にといった方法は知っている方も多いかと思います。
他にも健康に関する目標がたくさん定められていて、2002年度からの10年間が「第1次」、2013年度からの10年間が「第2次」として、現在でもその取り組みが続いています。
健康日本21の第二次でロコモ普及が目標に
健康日本21の「第2次」、ちょうど2013年度から始まった取り組み目標の中に新しく盛り込まれたのが「ロコモティブシンドローム」。
「社会生活を営むために必要な機能の維持・向上に関する目標」に位置づけられている「高齢者の健康」としてあげられている6つの項目のうちの1つです。
- 介護保険サービス利用者の増加の抑制(介護予防の取り組み推進より要介護状態になる時期を遅らせるという意味)
- 認知機能低下ハイリスク高齢者の把握率の向上
- ロコモティブシンドローム(運動器症候群)を認知している国民の割合の増加
- 低栄養傾向(BMI20以下)の高齢者の割合の増加の抑制
- 足腰に痛みのある高齢者の割合の減少
- 高齢者の社会参加の促進(就業又は何らかの地域活動をしている高齢者の割合の増加)
2015年度の調査では、ロコモティブシンドロームの認知度は44.4%、それを2022年に80%まで引き上げようというもの。
特に高齢世代での認知率は平均以上です。
いかに介護予防に関心が高まっているかということですね。
ロコモ予防のための10の運動習慣
ここからは実践編。
厚生労働省は、ロコモ普及のために、独自のウェブサイトを作成しています。
ここでは、ロコモについての基本情報や、ロコモ度をチェックできる項目や、ロコモ予防の活動報告が掲載されています。
また、ロコモ予防に効果のある運動方法なども紹介されています。
この中で今回取り上げるのが、毎日の生活にちょっとプラスするだけで良いという方法。
厚生労働省アクティブガイド2013に示された「いつでもどこでもプラス10」の項目です。
- 自転車や徒歩で通勤する
- エレベーターやエスカレーターではなく階段を使う
- 掃除や洗濯はキビキビと。家事の合間にストレッチ
- テレビを見ながら筋トレやストレッチ
- 仕事の休憩時間に散歩
- いつもより遠くのスーパーまで歩いて買い物に
- 近所の公園や運動施設を利用する
- 地域のスポーツイベントに参加
- 休日は家族や友人と外出
- 歩幅を広くして速く歩く
ロコモチャレンジのホームページでは、4の「筋トレ」は「ロコトレ」として紹介されていましたが。
これらを日々意識することで1日約10分追加、10の項目がクリアできるといいます。
ロコモ予防は高齢の方だけをターゲットにした取り組みではなく、中高年の若い世代に特に意識を向けてほしいなというもの。
生活環境や世代によっては、上記10のチャレンジは、現実的ではない場合もあるかもしれません。
普段通勤されている方でしたらできることは限られてくるかもしれません。
それでもまず大事なのは、日常的な運動習慣を意識づけること。
私が関わった&知るこれまでの調査からも、健康な人ほど、例えば毎日〇分必ず歩くようにしているとか、水泳をやっているとか、自主的に健康診断を受けたり習慣的に食事に気を払ったりしているし、自分の体調にとても敏感です。
そんな人は、たとえ数値が悪くても、意識しない時よりもずっと健康でいられているはずなのです。
ロコモの認知度向上とは、初期段階でそんなことも目指しているのです。
もちろん、人によっては、職業柄十分に体を動かす習慣はある方もいらっしゃるかもしれません。
でもそうでない方は特に、今毎日少し意識するだけで、高齢になって時間がたくさんできるようになった時に健康でいられる期間が長くなるはずです。
おわりに
毎日の積み重ねが大事というけれども、本当にそれはその通りだと思います。
私は自分がつまらないと思うことをコツコツ続けるのはできないタイプなのですが、いまの生活は十分に運動できる環境ではないことから、通勤時の移動は必ず早歩きかダッシュ、エスカレーターに乗るなら歩くと決めています(そうしないと間に合わないのですが…)。
きっかけは、腰痛がひどくなったことと足がむくみやすくなったこと、肩こりと頭痛。
体力アップのために、血行を良くして少しでも不調を改善するためにもと、ちょっぴり意識するようになりました。
数か月続けて、最近ほんの少し体が軽くなったような気がしています。
駅の階段もダッシュしても息が切れなくなったし、こんなささいな改善ですがまあ嬉しいものです。
肩こりと頭痛はもうどうにもなっていないので、それはまた別の方法もトライしてみています。
みなさんもぜひ。
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