2017年6月に脳科学者の茂木健一郎さんが、『脳を鍛える茂木式マインドフルネス』と題した書籍を出しました。
まだまだ日本では、その言葉そのものから、意味や効果が浸透しきれていませんが、これを機に各種メディアがマインドフルネスを取り上げ、関心をもった方も多いのではないでしょうか。
数年前まではそんなに話題になることなんてありませんでしたが、茂木さんの影響力はすごいですね。
でも、瞑想やヨガといったスタイルを前面に紹介するものが多く、いまいち「本当はとても簡単なもの」「いつでもどこでも」という手軽さが伝わり切れていない気が。
本領域の専門家として、今回は、マインドフルネスを今一度おさらいした後、現在進行形で世界中で実践されている例と効果をご紹介します。
目次
マインドフルネスの基本知識
マインドフルネスとはそもそも何?!
まずはそんな方に簡単にご説明しましょう。
マインドフルネス=「awareness」
マインドフルネスとは、かんたんにいうと「今ここに集中する」こと。
瞑想やヨガのイメージが先行しがちですが、そういった型のことではありません。
どんなスタイルでも、いつでもどこでも、「集中すること」または「awareness」を行うこと。
そうすることで、心を落ち着けたり、仕事や趣味でもなんでもパフォーマンスを上げることができますよというもの。
ちゃんとした研究結果で、その効果が抜群ですよということもわかっています。
日本ではいまいち浸透しきれていないものの、欧米では老若男女問わず多くの人が実践しています。
特にその効果に魅了されているのが、国の経済を担うエリート階級の人たち。
いわゆる「頭」で仕事をする人は、その「思考」の質が国や組織の存続を左右します。
限られた時間の中で質の高い成果を上げるためには、持ち前の能力プラスα、思考のレベルを上げることが重要です。
また、スポーツ選手も、過去でも未来でもない”今その時”に最高のパフォーマンスが要求されますよね。
一番のパフォーマンスをするために、体調を完璧に整え、メンタル面も良い状態にして、その上で”その時”に最高の集中力を発揮する。
その集中の仕方こそがマインドフルネスとも置き換えられるわけです。
マインドフルネスの効果
マインドフルネスは世界中で実践されています。
こちらは別の記事でも紹介しましたが、例えば、
- 医療現場で患者のストレス軽減・鬱病の再発防止のためのプログラム(MBSR)を取り入れる
- 企業では、仕事の満足度やモチベーションアップ・生産性向上のために瞑想の時間を設ける
- スポーツにおけるパフォーマンス向上のために実践
- 教育の現場における精神的な落ち着き・学習能力の向上などのために実践
このように、組織経営のための方法や個々人に対するメンタルトレーニングといった人材育成、子どもの教育の現場などでも活用されています。
基本的な考え方やその起源はこちらに詳しく書いていますのであわせてどうぞ。
マインドフルネスの起源
マインドフルネスはもともと仏教の考え方に由来しています。
その後1979年に、宗教的な意味合いは省いて、ジョン・カバット・ジン博士がマインドフルネス瞑想によるストレス低減法(MBSR)を開発しました。
MBSRは、慢性疾患患者さんへの治療効果が認められて、医療現場へと広がりました。
マインドフルネスの活用方法(スタイル)
何度も申し上げますが、マインドフルネスはヨガや瞑想のことを指すのではありません。
集中することこそがマインドフルネスで、その方法がヨガや瞑想。
でも瞑想もヨガも、宗教じみていて実践するには抵抗があるという方もいるかと思います。
私も実はそのひとり。
では身近なもので、これもマインドフルネスと関係する・マインドフルネスと呼んでも良い集中方法をいくつかご紹介しましょう。
今回は下記の3つを取り上げてみますね。
- スポーツ選手のルーティン
- ポジティブな思考
- 本番前の呼吸法
いまいち並列になっていないような気がしますがお気にならさず…
スポーツ選手のルーティン
出典:NEWSポストセブン「宇良、勢、正代、琴勇輝 人気力士の「ルーティン」解説」
正確には「ルーティンワーク」と呼びますが、スポーツ選手を取り上げると、出番になったら必ず目にするあのポーズ・あの動きのこと。
パフォーマンスを最大限に引き出すための集中方法です。
- ラグビーの五郎丸選手のキック前の謎のポーズ
- イチロー選手の、打席に入った時のぐるっと回して袖ちょいっと
- フィギュアスケートの浅田真央選手は、リンクに入る1歩目は必ず左足から
- テニスのナダル選手は、スポーツドリンクを2本用意して、必ず交互に飲む
- ゴルフのタイガーウッズ選手は、打つ前に狙う方向を2度見る
- 体操の内村航平選手の、演技の前に両手を地面と水平にあげる
取り上げだしたらキリがない、プロのスポーツ選手なら誰もが持っている本番前に”必ず行うこと”。
プロの世界の勝敗を分けるほんの少しの差は、驚くほど精度で鍛え上げられた繊細な技術です。
つまり、ほんの少しフォームが崩れるだけで大きなミスにつながってしまいます。
彼らの技術は反復に反復を重ねて体得したものですが、私達人間の身体の動作がメンタルの状態にすごく左右される。
こんな経験はありませんか。
- 緊張して声が小さくなった
- 緊張で体が硬くなってイメージ通りのパフォーマンスができなかった
- 自信がなく、頭が真っ白になってしまった
- 逆に、開き直ったら大胆なパフォーマンスにつながった
- 自信があること・慣れていることに向かう時に、いつも以上のパフォーマンスにつながった
前半と後半で相反することですが、どれもメンタルの状態がパフォーマンスに影響を与えた事例です。
特に、チャンスがこの場しかない・今この瞬間にやるしかないような職種についている人は、本番で能力を最大限に発揮する必要がどうしてもあります。
だから、その代表であるスポーツ選手は、身体を鍛えることと同時にメンタルトレーニングも必須。
本番を最高潮にモチベーションを高めるスケジューリングから、本番のその時のメンタル維持の技術までを身に着けるのです。
スポーツ選手は、身に着けた技術をいつも通りに発揮するために、自分なりのいつも通りの動作を持っている場合が多いです。
それがルーティンワーク。
本番の会場はいつもの練習場ではないし、観客も、コーチ陣による助言も熱を持ちます。
選手は外界から受ける刺激の量が一気に増えるのです。
ただでさえ緊張してのぞんでいるところで、さまざまな環境要因が妨害してくる。
ルーティンワークを行うことで、そんな環境下でも”いつもどおり”を見失わないよう身体の間隔を調整できるのです。
聞いた話…イチロー選手は打席に入ってからのパフォーマンスルーティンが実に17種類もあるとか。
もともと、本番までの過程でコツコツとルーティンをこなすことを人一倍…いや世界一といえるほど大事にしている選手ですが、これらがすべて本番の一動作へ集約されると思うと驚愕に値しますね。
ちなみに、ルーティンワークは人の生まれ持った癖だと思う方もいるかもしれませんが、それはちがいます。
ルーティンワークは地道なトレーニングで身につけた技術です。
選手たちはルーティーンワークを身につけるための練習時間も設けているのです。
これは、マインドフルネスの「意識して今そこに集中する」という教えに合致するところ。
スポーツ選手に限らず、普段の私たちの生活で例えると…
さあ仕事しよう!と出勤し、仕事モードに入る前に必ずすることありませんか?
- コーヒーを一杯飲む
- デスクを拭く
- お手洗いにいく
- 女性なら長い髪を結わえる
- スケジュール・メールを確認する
これらすべてが、スイッチを入れるためのいつもの動作といえます。
動作自体がマインドフルネスの方法というわけではありませんが、最大限のパフォーマンスを引き出すための事前の動作、これをやらないと落ち着かないというものですね。
ポジティブな思考
ルーティンについてだいぶ暑苦しく語ってしまいましたが、マインドフルネスのスタイルとして2つ目をご紹介。
これはもうそのとおり、”今ここに集中する”過程で大事なポジティブシンキング。
マインドフルネスは医療現場でも活用されています。
特に高ストレス者へのカウンセリング時に心理療法として大活躍。
うつ病患者への治療の過程では、気分が落ち込む症状を緩和するために、感情を上手にコントロールする必要があります。
医者はネガティブ思考と向き合うための方法を伝授します。
マインドフルネスによる心理療法により、
- ポジティブな体験を思い出す
- ネガティブな体験と向き合う
- 自分の環境を見つめなおす
- 自発的に対処する方法を考える
これらは、ある研究で述べられていたことです。
私は心理士ではないので治療の具体的な方法はわかりませんが、これらが病気の予防や健康増進、病気の進行の抑制するといった可能性があることがわかっています。
マインドフルネスは、症状の改善に自分から取り組もうとする試みでもあるのです。
また、宝塚歌劇団に2004年に入団した男役の方は、『でも』『だって』といったネガティブな言葉を口にしないようにしているといいます。
落ち込んだ時も、沈んだ気持ちのままではなく、冷静にダメだったことを理解することが大事です。
そのうえで、「なんとかなる!」という前向きな気持ちを持つと良いいそうですよ(2009年入団男役)。
本番前の呼吸法
出典:NewBalanceHP 連載「『湘南国際マラソン』本番を迎える」
リラックスするために、集中するために、緊張しないために、よくいわれる本番前の深呼吸。
ヨガでも大事にされる深呼吸。
全力ダッシュした直後を思い浮かべてみてください。
呼吸が乱れると息苦しいし頭も働かなくなりますよね。
逆に呼吸が整っていれば、気分が良くリラックスした自然な状態で、ゆとりを持って物事に取り組めます。
呼吸によってとりこんだ酸素が脳にいきわたることが、脳を働かせるためには必須ですよね。
呼吸が速くなるということは、つまり、脳に酸素が足りていないのでたくさん吸い込もうとする現象です。
なんだか眠たい時(頭が働かない時)は脳に酸素が足りていない時です。
意識して深呼吸して酸素たくさん吸い込むと、頭がじわじわとクリアになる感覚を体感できると思います。
ぜひやってみてください。
仕事中に眠くなったら背伸びして深呼吸、凝ってるなあと感じる関節などを動かすのも良いですよ。
滞っていた血液の巡りが良くなり、酸素が脳にたくさん到達するとパキッっと目覚める場合が多いです。
さて呼吸の仕方ですが、緊張で鼓動が早まっているときの深呼吸は逆にキツイ。
だからまずは呼吸しやすいリラックスした体勢になりましょう。
座っていてもいいし、立っていてもOK。
呼吸が速くなっているときは肩も緊張して上がっていることが多いので、一度ぐいっと引き上げ・または大きく伸びをして一気にストンと力を抜いて、肩をリラックスさせると良いですよ。
出典:日経スタイル「日経Goodayセレクト 働く人に多い「過緊張」 1分マインドフルネスが効果 こちら「メンタル産業医」相談室(1)」
自然に息が吸い込める体勢になることが大事です。
深呼吸はまず息を吐くところから。
大きくゆっくり吐いてください。
吐いたら吐いた分吸えますので。
深呼吸に意識を集中していればだんだんと呼吸が深くなり、息苦しさは緩和され気持ちも落ち着いてきます。
有名なスポーツ選手でいうと、フィギュアスケートの羽生結弦選手。
本番前に胸に手を当てて目を閉じて自分のペースで深呼吸する姿はよく見ると思います。
そして、最近、プロ入り後29連勝記録を残した藤井颯太四段で話題となった将棋。
将棋のプロ棋士が、勝率を上げるため、集中して良い手を考えるため多くが行っているのが姿勢を正して深呼吸することだといいます。
呼吸法によるパフォーマンス向上の方法は、取り組むものが何であれ、万人に良い効果をもたらすといえましょう。
集中は人を成長させる大事な過程
趣味でも仕事でも、のめりこんだり時間を忘れるほど没頭したりという経験は皆さん多かれ少なかれあると思います。
その対象は、プロとはいかないまでも、他の人よりは上手に・または質が高いパフォーマンスに鍛えられますよね。
そのパフォーマンスを行っている時は、上達しようと集中しているわけです。
- 仕事で新しいプロジェクトについた時はそのノウハウの習得に、
- プロジェクトチームのメンバーとのコミュニケーションに、
- 英語の試験があるなら英単語を覚えることに、
- 演奏会があるならその練習に、
- スポーツをしている際は例えばボールをよく見たりスイングやフォームを確認したり、
全てがその行為に集中することで上達します。
もちろん、持って生まれた適正はあるとは思いますが、その集中力の高さ・深さこそが、パフォーマンス向上に欠かせない要素なのです。
それは子供も一緒。
座ってじっとしていなきゃだめと言います。
それは、じっと座っていることが大事なのではなく、身体を動かすことに注意を向けるのを停止させ、人の話しに集中したり、よく見たりすることに集中することが大事なのです。
大人は器用なので、片方で別のことをしながらでも同時にできてしまいます。
集中するということが一番身近にみれるのが子供をみること。
子供はスイッチを切り替える能力が低いため、同時にいくつもに集中できません。
そのかわり、1つのことにものすごく熱中しますよね。
例えば電車好きの男の子。
電車が来たら体の動きは停止、その場で微動だにせずじっと電車を見ていませんか。
ごっこ遊びが好きな女の子。
外界の呼びかけはシャットダウンして、おままごとに熱中していませんか。
これは私が勝手に思っていることですが、子どもほど上手にマインドフルネスを実践している人はいないと思うのです。
その場で停止して、人の動きをじーっとよく見ている子は、まねっこが上手でよく見ていた動きの上達が早い。
これが吸収するということかと驚くほど。
もちろん、集中の仕方は子供によっては違います。
中には、動いていないと集中できない子や、短時間集中型の子、顔は下向き耳だけは集中して聞いている子も。
大人の世界でいう、さまざまな集中方法と一緒で、その方法は子供によって実にさまざま。
反れてしまいますが、教育の現場では「ずっと座ることが大事」「人の目を見て話しを聞くことが大事」といった”スタイル重視”の教え方が多いように思います。
でもそれは単なる形にすぎず、そんなのはその子のパフォーマンス向上には大した意味はありません。
集中とは関係のないただのマナーの問題だからです。
マナーももちろん大事ですが、本当に学んでほしのは、「よく聞くこと」「よくみること」といった”集中することが大事”という本質の部分。
だから生まれつき障がいを持った子たちの個性が伸びず特別扱いがいつまでも続くし、子どもたちは自己主張が弱い=強烈な個性がなく平均的に育ってしまうのだろうと、これも私の持論ですが…
悪いとは思いませんが、人の生き方をそんな風に大人の都合で幼少期から補正してしまうのはどうかと思うわけです。
おわりに
マインドフルネスは「今ここに最大限の集中をすること」ということで、そのためのいろいろな方法をご紹介しました。
近年何かと話題になるマインドフルネスは瞑想のことだと思われている方が大半だとは思いますが、楽な姿勢でいつでもどこでもという手軽なものだということを少しでもお伝えしたいなと思いました。
また、プロのスポーツ選手たちが癖のように本番前に行っているあれらの動作。
癖ではなく、身に着けた集中するための技術であることから、それだけ精神状態を上手にコントロールすることが重要であるかをお分かりいただけたかなと思います。
本番で最高のパフォーマンスをするための儀式的なものは、プロでなくとも私たちでも個人個人ある方もいるのではないでしょうか。
そんな、自分なりの集中するための方法を確立されている方は、きっと「本番に強い」ほうではないでしょうか。
そして、マインドフルネスの考えである「集中すること」が、いかに人の成長の過程で重要かをお伝えしました。
幼い頃にあたりまえのように行ってきたことは、器用な大人になるにつれて忘れてしまいがちです。
今一度、マインドフルネスによって呼び起こしてみませんか。?
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