今年も暑い季節がやってまいりますね。
同時に楽しみたいのがマリンスポーツ。
体が冷える心配も薄れることから、お子様がいらっしゃるご家庭では家族でプールに行ったり、スイミングスクールデビューを考えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
しかし頭の片隅に置いておいていただきたいのが、プールは感染症が感染しやすい環境であるということ。
今回は、夏場のプールで感染しやすい感染症と、対策と注意したいことをご紹介します。
目次
プールで感染しやすい感染症
プールは感染症が感染するための感染条件が揃いやすい場所です。
感染症が感染する条件とは
こちらのリンク先に詳しく書いていますが、感染症が感染するためには3つの条件があります。
- 感染者や病原微生物が付着したものなど感染元がある
- 感染元から感染経路を通じて伝播する
- 感染しやすい免疫力の低い人がいる
※わかりやすいよう、上記リンク先のサイトとは書き方を換えていますが、同じ意味です。
食中毒なら汚染された食品から、また人の咳やくしゃみから病原微生物が身体の中に入り、疲れていたりストレスで体の免疫力が弱くなっていると、体内で病原微生物を始末できずに発病してしまうのです。
人によって症状の重さが異なるわけは体の免疫力と体内に入った病原微生物の量によるわけです。
プールが感染しやすいわけ
二度目になりますが、プールは感染経路が成立しやすい環境です。
なぜかというと、
- 他人の唾液や鼻水などが水の中で口の中に入りやすい
- 同じく、汚れたお尻でそのまま水に入ると、それもまた口に入りやすい
- 水着は露出が多く肌が直接触れやすい
- 水によって体が冷えると鼻水が出やすくなる
- 水によって皮膚がやわらかくなる
こんなところでしょう。
プールは水でつながっていて、限られた範囲内のため病原微生物が水中に居続けてしまう環境なのです。
もしも何らかの感染症にかかっていて、水中に病原微生物をばらまいてしまった場合。
それは水を介して一緒に入っている他の人の口にも入りやすい状況です。
感染性胃腸炎の症状である下痢症状がある人も同じく。
子供は特にそうですが、うんちや下痢を綺麗に洗ったあとで入らないと、そこが感染源になるのです。
プールが原因で集団感染した例
過去に、長野県の保育園のプールの水が原因で腸管出血性大腸菌O26が集団感染した事件(IASR Vol. 34 p. 132-133: 2013年5月号)がありました。
概要はこちらです。
2012年8月10日、長野県の保育園でプールに入っていた児童と職員あわせて61名が腸管出血性大腸菌O26に感染した。
原因を探るため検査したところ、プール前に足の砂を落とす金タライの水からO26を検出した。
保育園では、プールの前にパンツを脱がずにずらしたままお尻を洗っていて、パンツに染み込んだ水がタライに滴り落ちる状況だったとのこと。
再びそのパンツをはいてプールに入っていたため、プールの水も同様に汚染されたと考えられている。
またプールは塩素消毒がされていなかった。
その時の検査結果の表がこちらです。
出典:国立感染症研究所「プール水が原因と推定された腸管出血性大腸菌O26 集団感染事例-長野県」
園児・職員で計330名を検査して、「EHEC O26分離数(%)」の数値から、園児で40名(49.4%)・職員等が2名(8.0%)・接触者が19名(8.5%)、合計61名(18.5%)が感染したということが読み取れます。
ものすごい集団感染の例です。
EHECとは腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli)のこと。
分離数とは、簡単にいうと生きたウイルスに感染している数です。
ウイルス検査専門用語解説
分離数というワードが気になって仕方ない方のために、ちょっと豆知識を挟みましょう。
ウイルスの検査(例えばインフルエンザ)をする場合、粘液や血液をとります。
検査キットで、ウイルスがいるかいないかだけを判定します。
これは分離ではなく検出。
一方、集団感染後など、どんなウイルスで感染源・感染経路が何だったかをじっくりと探らなければならない状況の場合は、ウイルス分離させるのです。
なにかというと、検出は文字どおりウイルスがいるかいないかだけしかわからず、ウイルスはいるけど死んでいてなんの影響もないものも含まれるから。
分離させるという聞きなれない言い回しは、生きているウイルスを発見するためにウイルスを増殖させる課程で行う「分離」という作業から来ているものです。
ちなみに、病院では簡易検査がほとんどだと思います。
ウイルス感染が疑われる症状が出ていて、例えば周辺に感染者がいたということがあった場合。
ウイルスが生きていようと死んでいようと、感染による症状だということさえわかればいいのですから。
プールで感染しやすい感染症
プールが感染しやすい環境である点はご理解いただけましたでしょうか。
では具体的に、どんな感染症が夏の水遊びの季節にプールで感染するのでしょうか。
下記がプールで感染しやすい感染症で、実際に過去集団発生があったものです。
プール遊びをして、集団感染があるといえば、たいていが保育園か幼稚園です。
お子様を保育園・幼稚園に通わせているご家庭では本情報は必見ですよ。
- 咽頭結膜熱(プール熱)
- 流行性角結膜炎(はやり目)
- 急性出血性結膜炎
- 手足口病
- ヘルパンギーナ
- 腸管出血性大腸菌感染症(O157・O26・O111等)
- レジオネラ症
- 伝染性軟属腫(みずいぼ)
- 伝染性膿痂疹(とびひ)
- アタマジラミ
このうち、特に毎年現場で意識されているのが、
- アタマジラミ
- 咽頭結膜熱(プール熱)
- 流行性角結膜炎(はやり目)
夏季に流行りやすい感染症といえば、手足口病・ヘルパンギーナ・とびひですが、問題となる感染症のトップ3は上記3つでしょう。
咽頭結膜熱(プール熱)は、原因菌がアデノウイルスといえば伝わる方も多いでしょうか。
プールから流行することが多いためプール熱とよばれています。
プール熱は結膜炎を引き起こすこともしばしばで、それが流行性角結膜炎(はやり目)のことです。
感染症の流行カレンダーはこちらよりご参考に。
では、それぞれの感染症の特徴を簡単にみていきましょう。
咽頭結膜熱(プール熱)
アデノウイルスというウイルスが病原体。
夏風邪の代表格です。
のどの腫れ・痛み、リンパ節の腫れ、結膜炎(目の充血・痛み・目やに)、39-40℃の高熱。
出典:参考:東京都多摩府中保健所 生活環境安全課 環境衛生第一・二係「小規模プールの衛生管理」資料
高熱は4~5日間続きます。
ウイルスに感染してから発症するまでの期間である潜伏期間は2日~14日と幅があります。
学校保健法で学校の登校制限があり、「主要症状が消退した後2日を経過するまで」となっています。
流行性角結膜炎(はやり目)
こちらは、はやり目と呼ぶほうが身近でしょうか。
プール熱と同じく夏風邪の1つとされています。
プール熱の症状の1つですが、目が腫れたり充血したりという結膜炎の症状があれば、流行性角結膜炎です。
出典:参考:東京都多摩府中保健所 生活環境安全課 環境衛生第一・二係「小規模プールの衛生管理」資料
恐ろし気な画像ですみませんが、ひどい症状の時はこんなになります…
接触感染するので、感染が広がりやすい感染症といえます。
こちらも学校保健法による登校制限があり、「医師において感染のおそれがないと認められるまで」とされています。
急性出血性結膜炎
こちらも結膜炎です。
病原体はエンテロウイルスもしくはコクサッキーウイルスです。
同じく接触感染します。
出典:参考:東京都多摩府中保健所 生活環境安全課 環境衛生第一・二係「小規模プールの衛生管理」資料
潜伏期間は 1~3日。
感染したら割とすぐに発症するイメージとご理解ください。
一気に症状が出るため、急性の結膜炎・出血、まぶたの腫脹・流涙・目やにが主な症状です。
こちらも学校保健法による登校制限があり、「医師において感染のおそれがないと認められるまで」とされています。
ヘルパンギーナ
夏の代表的な感染症の1つ。
病原体はコクサッキーウイルスです。
急な高熱(39℃以上出ます)・咽頭痛・ のどの奥に白いプツプツができます。
プツプツは破れると潰瘍になり、口の中の不快感によって小さい子供は不機嫌になりがちです。
出典:参考:東京都多摩府中保健所 生活環境安全課 環境衛生第一・二係「小規模プールの衛生管理」資料
こちらも学校保健法による登校制限があり、「医師において感染のおそれがないと認められるまで」とされています。
手足口病
夏の代表的な感染症の1つ。
ヘルパンギーナと症状が似ています。
病原体はエンテロウイルスもしくはコクサッキーウイルス。
エンテロウイルス、コクサッキーウイルス…さっきから何度も出てくるけれどもと思われた方。
同じウイルスでも、インフルエンザのようにその中には何種も異なる型が存在します。
A型とかB型とかいうやつです。
インフルエンザの型についてはこちらの記事もご参考に。
潜伏期間は 3~6日、主な症状は手・足・臀部に痛みを伴う水疱 、高熱(まれ)。
出典:参考:東京都多摩府中保健所 生活環境安全課 環境衛生第一・二係「小規模プールの衛生管理」資料
こちらも学校保健法による登校制限があり、「医師において感染のおそれがないと認められるまで」とされています。
腸管出血性大腸菌感染症(O157・O26・O111等)
こちらはよく耳にする方も多いかと思います。
食中毒による発症が多い、腸管出血性大腸菌(ベロ毒素を産生) を病原体とする感染症です。
潜伏期間は10時間~6日。
一通りの風邪症状に加えて、激しい腹痛・下痢が特徴です。
下痢は水っぽい下痢からだんだんと血便になることも。
レジオネラ症
レジオネラ菌を病原体とし、空気感染・飛沫感染します。
過去の感染例からみると、循環式の浴槽・冷却塔・温水プー ル・給湯設備などで、水中にいた菌がしぶきとともに飛散して、それを吸い込むことによって感染が起こっています。
潜伏期間は2-10日間。
主な症状は、まとめてレジオネラ肺炎とよばれる症状で、全身の倦怠感・筋肉痛・高熱・咳・肺炎・下痢・意識障害と、ポンティアック熱とよばれる発熱・頭痛などのインフルエンザのような症状があります。
伝染性軟属腫(みずいぼ)
病原体はポックスウイルスで、潜伏期間は 2週間~7週間。
6か月以上の長期間が過ぎてから発症するケースもあります。
つやのある1~10mmの丘疹(きゅうしん)ができます。
丘疹(きゅうしん)とは、皮膚の内側からポコッと出てきたイボのこと。
皮膚の中央部にくぼみがあることが特徴です。
出典:参考:東京都多摩府中保健所 生活環境安全課 環境衛生第一・二係「小規模プールの衛生管理」資料
プールで感染する感染症ということで紹介しておりますが、日本臨床皮膚科医会・日本小児皮膚科学会によると、水いぼはプールの水ではうつらないので、プールに入ってもOKとのこと。
でも要注意。
タオル・うきわ・ビート板を介してうつることがあります。
共用は避けるよう注意喚起されていますが、学校・保育園・幼稚園や公共のプールでは共用のプールグッズを使用しますよね…
伝染性膿痂疹(とびひ)
黄色ブドウ球菌が病原体で、潜伏期間 1日~数日。
1~2mmの水疱ができて、1~2 日経つと水泡が大きくなります。
出典:参考:東京都多摩府中保健所 生活環境安全課 環境衛生第一・二係「小規模プールの衛生管理」資料
こちらも、日本臨床皮膚科医会・日本小児皮膚科学会によると、プールの水ではうつらないとのこと。
でも、水泡に触れることで、症状を悪化させたりほかの人にうつすことがあるため、治るまでプールは禁止ということ。
アタマジラミ
一番最後の紹介となってしまいましたが、こちらのアタマジラミ、本当によく出る感染症。
鳥肌がたちます…
こいつは人の頭にだけ寄生するシラミで、頭皮から血を吸って生きています。
接触することでのみ感染し、頭皮のかゆみが主な症状です。
出典:参考:東京都多摩府中保健所 生活環境安全課 環境衛生第一・二係「小規模プールの衛生管理」資料
子供は特にうつりやすいです。
というのは、アタマジラミは人の頭皮にのみ生息していて、子どもは頭をくっつけてワイワイ遊ぶことが多いですよね。
プールでも一緒。
アタマジラミはどんどん感染しては血を吸って髪の根元に白い卵を産みます。
日本臨床皮膚科医会・日本小児皮膚科学会では、治療を始めればプールに入ってもOKとのこと。
でも、タオル・ブラシ・水泳帽子の貸し借りはNG。
駆除専用のシャンプーなどは市販で売っていますので、根気よく倒していくしかないでしょう。
プールでの感染に気を付ける方法
さてでは具体的な感染予防についてお話ししましょう。
主に3つ。
- 体調管理
- プール遊具やシャワーなど設備管理
- 水質の管理
感染源になりそうなもの、プールで感染する感染症にかかっている人・症状が出ている人を適切に制限することが大事です。
そして最後の防波堤は水質管理。
1つ1つみていきましょう。
体調管理
病院の診断を待っていては遅いため、プールに入る前に必ず体調のチェックが必須です。
- 下痢はしていないか
- 中耳炎・外耳炎にかかってないか
- 扁桃腺が腫れていないか
- 熱がでていないか
- 結膜炎になっていないか
- 発疹が出ていないか
- シラミチェック
少しでも感染症が疑われる症状があれば、プールに入るのを中止しましょう。
プール遊具やシャワーなど設備管理
プール開きの少し前に、プール掃除がイベントのようにありますよね。
プールの管理者は、感染経路になりやすい遊具の手入れやシャワーなどの設備・備品の衛生状況を確認しましょう。
また、感染予防だけでなく、もしもの事故に備えた救急セット等の備品をしっかり揃えることが重要です。
水質の管理
そして一番大事なプールの衛生管理。
- 水温を適切に管理:「気温+水温=50」が目安ですが、乳幼児の場合は高めが良い
- 水を塩素消毒する:残留塩素濃度を0.4mg/ℓ~1.0 ㎎/ℓにキープ
- 水の濁りや異物がないかチェックする
外のプールは、冷たい!と感じる程度でも入っていた記憶があります。
「気温+水温=50」とは私には寒かったですが、健康状態を考慮する上では適しているのでご安心を。
先に紹介した腸管出血性大腸菌O26の集団感染例では、塩素消毒をしていなかったというまさかのミス。
スポーツクラブなどのジャグジーやプールも必ず塩素消毒がされていて、独特なにおいがしますよね。
残留塩素濃度を0.4mg/ℓ以上というのもとても大事な数値です。
0.4というこの濃度、何が基準になっているかというと、持ち込まれた病原体を一瞬で死滅させるために必要な消毒濃度なのです。
例えば、よく知られる病原微生物を殺菌するために必要な塩素濃度はこちら。
- 残留塩素0.1mg/ℓ:チフス菌・肺炎球菌・ジフテリア菌・サルモネラ菌・黄色ブドウ球菌・溶血性連鎖球菌など
- 残留塩素0.15~0.25mg/ℓ:大腸菌など
- 残留塩素0.4mg/ℓ:アデノウイルスなど
殺菌に最も塩素が必要なウイルスを基準に0.4mg/ℓと定めているわけです。
ご家庭でも、お友達をよんで一緒にプールで遊ぶ時は、塩素剤を購入してきて塩素消毒したほうが安心ですよ。
保育園・幼稚園のプール制限
ここまでしっかりプールの管理をしていても、実際に過去にはプールを介した集団感染が出てしまっています。
特にシーズンごとに流行してしまった感染症があった場合、その地域では特別にプールに入るための条件やら寄生やらが設けられます。
昨年シーズンから我が自治体でもそうでした。
ちょうど嘔吐・下痢症状が流行ってからです。
それはもう仕方がない…
そしてもう1点。
小さい子供をプール遊びさせるのに、保育園や幼稚園のプールの水位は溺れないようにものすごく低くされています。
年長さんくらいになると潜って泳ぐこともできると思いますが、小さいクラスでは頭は外に出ている状態です。
たとえばご紹介したアタマジラミなんかは、消毒されている水につかることはないので、そりゃうつりますよね。
さて、具体的にプール遊びについてどんな注意が出たかというと、例えば、
- プール遊びの前のシャワーとお尻洗いの徹底・プール後のシャワーとうがいの徹底
- おむつがとれていない乳幼児は個別の小さいプール(たらいなど)を共用しないで水遊びを楽しむ
1つ目は良いでしょう。
2つ目がこれまたシュールで…
小さい子供1人が入れる、本当に見た目”たらい”に水を入れてテラスでパシャパシャ…
感染を防ぐためにやむを得ないとはいえ、でっかいプールで遊ばせてやりたいと思う親心です。
今はおしっこやうんちがもしも出てしまっても外に出て行かない水着もありますし。
おわりに
後半、私個人のボソボソとした意見のようになってしまいましたが、プールは感染しやすい環境であるという点と気を付ける感染症についてご理解いただけましたでしょうか。
実際は、きちんと水の消毒管理ができていれば問題ないのになとは個人的には思います。
だれも、発熱していたり皮膚に異常があったり機嫌が悪いなどで、体調が悪い時にはプールに入らないものですし、子どもならなおさらですよね。
それでも公共や保育園・幼稚園のプールはしっかりと管理されているはず。
問題はプライベートで仲間内で水遊びをする場合ですね。
今回ご紹介した注意する感染症を念頭に入れ、水質管理などきちんと準備した上で楽しみましょう。
コメントを残す