2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックが近づいてきましたね。
国内では開催に向けた建設ラッシュが続き、海外からの渡航者が急増することから、公共設備の整備・インフラの整備が急がれています。
オリンピックは大勢の人が集中して集まる一大イベントです。
でも公衆衛生的にいうと、感染リスクが一気に高まる要注意期間。
今回は、オリンピックの感染対策を例に、開催に向けた予防の取り組みをご紹介します。
目次
人が集まるイベントは集団災害のリスクが高い
日頃から、感染対策は重要だといわれていて、インフルエンザにならないように予防接種をしましょうとか、風邪をひかないように手洗いうがいをしましょうとか、感染しないためには”予防”が基本ですよね。
特に五輪開催に向けては、日本人だけでなく海外から様々な国籍の人が集まります。
日本ではほぼ見られないような感染症が流行る国から来日する人もいます。
そのため、五輪開催は、テロ対策や麻薬・違法ドラックなどの対策と並んで、阻止しなくてはならない”危機”なのです。
このように人々が大規模に一度に集まることを”マスギャザリング”と呼び、公衆衛生の専門家はリスクを小さくするために様々な取り組みを提案しています。
Mass-gathering(マスギャザリング)とは
この言葉、一般にはなじみの薄いものだと思います。
公衆衛生の特に疫学研究を生業としている学者の中では最近流行りでよく議論の題材になりますが。
Mass-gatheringとは「共通した目的で、1,000名以上の方が同一時間、同一地域に集合するもの」と定義づけられています。
前述しましたが、具体的には、
- オリンピック・ワールドカップ・東京マラソンなどのスポーツイベント
- 祭り・花火大会
- 展示会などの催し物
- コンサート・ライブ
- ディズニーランド等のテーマパーク
- メッカの巡礼
などがあげられます。
また、記憶に新しいのが、大流行したポケモンGOでレアポケモンを入手するために集まったポケモンマスターたちであふれかえった新宿御苑の図。
ちょっと笑ってしまうこの光景ですが、ポケモンGOが巻き起こした社会現象は、集団災害のリスクを飛躍的に上げた”公衆衛生上要注意な現象”だったのです。
例えば、この群衆の中に1人でもインフルエンザに罹っている人がいたとしましょう。
インフルエンザはくしゃみや咳からうつります。
それぞれの飛距離が、咳で約3メートル、くしゃみで約5メートル。
咳をしただけでも、周辺の6~7人が射程圏内。
くしゃみをしようものなら、軽く10人程度は直接感染の危険にさらされます。
感染力が強い感染症ならばなおさら気を付けなければなりません。
集団感染を含む、このような集団災害の例は過去にも出ています。
Mass-gatheringにおける集団災害の例
国内で集団災害の危険があるイベントは、例えば
- 初詣(明治神宮:313万人、成田山新勝寺:300万人)
- 愛知万博:28万人
- 同人誌の即売会:3日間で約59万人
- 日産スタジアム:最大約7万人
- 東京マラソン:約3万7千人
こういったイベントは必ず救護室が設けられ救急医療体制や、万全の警備体制のもとで開催されます。
そんな中で大規模に災害が起こった事例は、
- 2015年、第23回世界スカウトジャン ボリーで発生した髄膜炎菌感染症
- 2000年6月には札幌・YOSAKOIソーラン祭りテロ
- 2001年7月には兵庫・明石花火大会事故等
- ハッジと呼ばれるメッカ巡礼では、数百人もの人々が投石(儀式の一つ)や将棋倒しで命を落とす事故が発生(2006年のある1日で350人 死亡、2015年717人死亡)
ハッジとは、サウジアラビアの聖地メッカの巡礼のことで、毎年200万人もの規模で人が集まります。
出典:AFPニュース
毎年問題となるのが、儀式の1つである悪魔払いの投石。
石にあたって死亡する人やケガをする人が何百人規模で出ます。
また、髄膜炎やインフルエンザ、致死率約40%にもなるといわれるMERS可能性も危険視されています。
政府は、妊婦・子ども・慢性疾患のあ る人はハッジに行かないよう呼びかけたり、悪魔の象徴だった「柱」を「受け皿」形にすることで投石による危険を減らしたりと対策をとっています。
五輪開催に向けた感染対策
さて、五輪開催に向けた感染対策に話を戻しましょう。
日本国内では、発展途上国で流行っている致死率の高い感染症は現在出ていません。
でも、多国籍の人が一度に集結する場合は、感染者がうっかり来日してしまうケースもあり得ます。
そこで、感染対策としては、
- デング熱等の蚊媒介感染症対策
- 結核患者の服薬支援
- 風疹予防対策
- 食中毒対策
をとりあげ、情報収集体制を強化しようという動きが広まっています。
出典:厚生労働省
では、ここで出てきた風疹と結核、食中毒について少しお話ししましょう。
障害児を産んでしまう風疹保菌者を減らす
風疹は、日本は他の先進諸国と比べて予防接種を受けていない世代がいる、感染者もまだ出ている問題の感染症です。
風疹は、予防接種でほぼ100%予防が可能です。
でも、「予防接種による副反応じゃないか?!」と思われた健康被害が出て以降、日本政府はワクチン接種の推奨をとりやめました。
しばらくして再開したものの、その間ワクチンを打っていない人が40代~50代を向かえて未だ感染を出してしまっています。
風疹が怖いのは、妊婦が感染していた場合、産まれてくる子供が障害を持ってしまうケースが多いこと。
ワクチン接種費用は自治体負担で補助がでますので、接種していない方は迷わず打ちましょう。
風疹について詳しくはこちらの記事もご参考に。
結核患者は薬をしっかり飲む
過去の病気だと軽くみられがちな結核。
実は日本は、感染者数のレベルでいうと、患者が少ないという「低蔓延国」ではありません。
日本は人口10万人当たりの患者数が16.1(25年)と高いため、「中蔓延国」なのです。
出典:産経ニュース
結核は薬を飲めば治る病気です。
でも、日本は高齢化世界一進んでいるため、認知症で症状が出ていてもそれを伝えられずに診断が遅れたり、薬を飲むのを忘れてしまったりと高齢化先進国ならではの問題が原因で患者がなかなか減りません。
高齢者は体も弱っているため、感染しやすく、結核の発症後、大勢にうつって問題となるケースはたいてい病院や介護施設です。
五輪開催に向けては、服薬の徹底を掲げて、患者を減らそうという取り組みを進めています。
結核について詳しくはこちらの記事もご参考に。
感染者を国内に入れない取り組み
国内の感染者を治療に導き、新しい感染者を出さないようにというのが感染対策の基本の考え方です。
新しい感染者は、国内の感染者からの感染と、海外からの渡航者による持ち込みがあります。
持ち込みを阻止するための対策としては、空港での検疫体制の強化。
具体的には、感染症蔓延国からの訪日者に対して、検疫所でサーモグラフィーによる検査を行ったり、どの地域に渡航したかを詳しく記入するようにしたりでしょうか。
出典:厚生労働省
食中毒への対策
また、食中毒も感染症の1つとして、対策が強化されています。
ノロウイルスと並んで注意が必要なのがカンピロバクター。
カンピロバクターとは細菌の1つで、国内の食中毒の原因菌として最も多いものです。
カンピロバクターは、きちんと加熱処理されていない生肉などを食べることで感染するケースがほとんどです。
人から人へうつることはありませんが、汚染された食品を食べることで給食などでは一度に大勢の感染者が出てしまいます。
夏は特に食物が傷みやすいため、政府は8月を食品衛生月間として、食品を扱う業者を中心に気を付けるように呼びかけています。
家庭でも、特に発症が多い年齢である10代~20代に対する食事には十分に注意を払いましょう。
ノロウイルスは、汚染されていた二枚貝を生あるいは十分に加熱調理しないで食べた場合に感染するケースが多いです。
カンピロバクターと異なる点は、人から人へうつる点。
感染した人が嘔吐したり下痢をしたりしたものが飛び散って周囲に感染し、集団感染につながることが多いです。
どちらも食中毒の代表格ですが、共に気を付けることは、生の食品を食べる時は、
- その食品が安全であることを確認してから食べよう
- 特にトイレ後の手洗いを入念に
ということ。
ノロウイルスについて詳しくはこちらの記事もご参考に。
おわりに
そんなわけで、風疹・結核をはじめ、近頃感染症対策についてよく耳にするようになったのは、五輪開催に向けての感染対策が強化されているからというわけですね。
これを機に、感染症に対する知識が広まってほしいなと思います。
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