ノロウイルスと同じく、感染性胃腸炎を起こすロタウイルス。
実は、急性胃腸炎が原因で入院している5歳までの子どものうち、40~50%がロタウイルスが原因です。
今回は、そんな身近なロタウイルスの基本情報と、今シーズンの流行情報、受けるべき任意の予防接種の是非をお伝えします。
目次
ロタウイルスとは
ロタウイルスは、ノロウイルスやインフルエンザウイルス同様、星の数ほどあるウイルスの一種です。
ロタウイルスに感染すると、ノロウイルスに感染した時と同様に急性感染性胃腸炎を起こします。
流行時期は、3月から5月頃まで。
ちょうど春先から新年度を迎えて間もない時期に注意が必要になるのです。
症状の特徴
ノロウイルスと同じく、感染すると急性の感染性胃腸炎にかかりますが、少しずつ特徴が違います。
ノロウイルスは11月から2月までの冬季、ロタウイルスは3月から5月が流行時期です。
感染性胃腸炎の症状は、どのウイルスや細菌が病原であっても、嘔吐・下痢・吐き気が共通します。
ロタウイルスの場合は、それに加えて38度以上の発熱が特徴です。
感染すると、2日~4日の間は体の中に潜伏して着々とウイルス量を増やし(潜伏期間)、その後発症します。
発症するとこんな症状が出ますよ。
- 水のような下痢・嘔吐
- 吐き気が続く
- 脱水症状*数日間続くこともある
- 発熱(38度以上*小児の1/3が39度以上の発熱を報告している)
- 腹痛・お腹の不快感
下痢・発熱がノロウイルスの場合と異なる特徴の症状ですが、下痢がひどい時や発熱で汗をかいた後に脱水症状になりやすいのもロタウイルスの症状の特徴といえます。
たいてい1~2週間で自然と治ります。
が、要注意なのは重症化するパターンの時。
合併症も注意が必要で、
- けいれん
- 肝機能異常
- 急性腎不全
- 脳症
- 心筋炎
などが起こることがあって、死亡報告もゼロではありません。
ロタウイルスが原因の胃腸炎で亡くなった人は、日本では毎年2~18名が報告されています(平成12年~24年厚生労働省人口動態統計)。
一方世界では、5歳未満の子どもで、約50万人の死亡があるとされていて、そのうちの80%以上が発展途上国で起こってるとのことです。
でも実際にこどもの様子をみていて、「肝機能がおかしい」とか「脳症になってるかも?!」とかいう専門的なことはわからないと思います。
ちなみに脳症とは、ウイルスが原因で、脳に浮腫ができてしまい、けいれんや意識障害を起こす症状です。
ロタウイルスだけでなく、インフルエンザウイルスなどでも、まれに急性脳症に発展してしまうことがあります。
急性脳症は致死率がなんと33%。
だから、
- 意識の低下
- けいれん
が見られたら、何を置いても迅速に近くの病院に駆け込みましょう。
迷わず救急車を呼んでも良いレベルの危険度です。
誰がかかるか
主にかかりやすいのが、0歳~6歳までの小さな子ども。
大人が「ロタにかかっちゃったんだよね~」とかいう話しはめったに聞きませんよね。
でもロタウイルスは、ノロウイルス同様に年齢は関係なく感染してきます。
大人ももちろんかかりますよ。
ただ、ロタウイルスは感染力が非常に強く、一生のうちに何度もかかっているようなウイルスなので、その都度抗体ができて、大人になる頃には、かかっても症状が軽い場合が多いのです。
ふつう、5歳までには、ほぼすべての子どもがかかっているともいわれています。
また、小学校にあがる前の年齢の約半数もが、ロタウイルスによる症状で小児科外来を受診しているという報告もあります。
ロタウイルスの強い感染力
ロタウイルスは感染力がものすごく強いです。
感染力が強いとは具体的にどういうことかというと、少しのウイルス量でも感染してしまうということ。
この「少しのウイルス量」とはどのくらいかというと…
もしもロタウイルスにかかったら、その人の下痢便たった1グラムの中には1,000億~1兆個もロタウイルスがいるともいわれています。
1グラムは1円と同じ重さ。
つまり、あのサイズの便中に1,000億~1兆個もロタウイルスがいるということになります。
ロタウイルスの感染は、排便する際に飛び散ったウイルスが口から入ると成立する、飛沫感染です。
かたい便ならまだしも、下痢の場合、飛び散りやすいのはご想像どおりです。
特に子どもの排泄処理をする時は、月齢が低いほど事故が起きやすいもの。
オムツをかえている最中にブビー!!っと出てきてしまったりとかね。
子どもたちが共同生活をする保育園や幼稚園なんかでは、皆が共同のトイレを使うので、感染リスクが高まるのはいうまでもありません。
さて肝心の、どの程度のウイルス量で感染してしまうのかということですが…
さあ驚いてください。
たったの10~100個です。
1円玉サイズの便に1,000億~1兆個ものウイルスがいるだろうといわれていて、下痢症状がひどいのが特徴なのに、たったの10~100個が口から入るだけで感染してしまうのです。
感染力が強すぎて感染予防は困難
ちょっとリアルな感染のしかたをお話しすると、たとえば排泄処理が必要な患者さんや赤ちゃん。
便の処理が終わって、当然手洗いはすると思います。
下痢だったらなおさらしっかり洗うと思います。
でも、十分に手を洗っても、手や爪にウイルスが残っていることがよくあるのです。
その後、その手で食事をしたりメイクをしたりするだけで、そりゃあ口の中に入りますよね。
こんなふうにどんどん感染が広がってしまうため、ロタウイルスの感染力は非常に強いといわれている理由です。
また、たとえ衛生状態が改善されている先進国でも、ロタウイルスの感染予防はきわめて難しいとされています。
だから、ロタウイルスが原因の急性胃腸炎による死亡や重症例の数が国によって違うのは、その国の医療体制の優劣に左右されているというわけです。
先進国では、発症したらすぐに、受け入れ体制が整っている病院で適切な処置ができますが、発展途上国ではそうはいかないでしょう。
医療機関が整備されていない発展途上国では、ロタウイルス感染症が原因で死亡する乳幼児がたくさんいるのです。
小さい子供を持つ親としては、助かったかもしれない乳幼児の死亡は、本当に悲しく悔しいことだと感じます。
同時に、自分は公衆衛生レベルの高い日本に生まれ、致死率の高い感染症に出会うこともなく、衛生環境が悪いことによる「死亡」なんて想像すらできないほど恵まれて過ごしているということを実感します。
今シーズン(2018年シーズン)の流行状況
さてでは、2018年シーズンのロタウイルスの流行状況をみてみましょう。
国立感染症研究所では、毎週、全国から報告があった感染症の罹患数を集計して公開しています。
2月下旬から患者が急増
グラフの縦軸「定点あたり」とは、ざっくりと「1つの医療機関あたり」という意味です。
横軸の「週」は、2018年の1月1日の週を第1週としてカウントしたもの。
第9週は2月26日~3月4日の週にあたります。
グラフからは、第7週以降急激に患者が増えていることが読み取れますね。
出典:国立感染症研究所 感染症発生動向調査 2018年第9週(2月26日〜 3月4日):通巻第20巻第9号
過去のシーズンと比較して、流行状況は大差なく、4月頃に流行のピークを迎えると予想されています。
4月はストレスフルな感染しやすい体調
4月は新年度を迎えて、まだ肌寒い日もあり、かかりやすい年齢の子どもたちは、保育園や幼稚園で新しいクラスになります。
いつもと違う感じは、幼い子供たちにはとてもストレスのかかることで、春は体調を崩す子が多いですよね。
うちの子も春のメンタル不安定ぶりが半端なく、毎年毎年なんか調子崩しています。
こんな時期に周辺でロタウイルスの感染が出てるとなったら、うつるリスクは跳ね上がりますよね。
だから、ロタウイルスに対しての心づもりとしては、
- 周辺で流行っているならなおさら意識して手洗いをする
- 便がゆるかったら処理の時は面倒でもマスクをする
- 子どもの機嫌が悪いなど、”疲れてる”サインがあれば、可能な限り無理して出かけない
こんなところが、予防として意識できることだと思います。
でも申し上げたとおり、ロタウイルスの感染力の強さは脅威です。
かかるのを承知のうえで、
- 重症化させないようにする
- 周りにうつさないようにする
といった、感染後のことを考えた対応が大事です。
重症化させない手段としては、免疫力を高く維持することと、予防接種があげられます。
免疫力の維持・向上には、食事・睡眠・運動の生活バランスが大事です。
中でも疎かにしがちな「睡眠」は、本当に身体の不調にダイレクトに影響すると、経験的に感じています。
その他、ストレスによる影響も大きいため、自分がどんなことにストレスを感じて、どんなことで発散できるのか、そういったことを頭の中で整理してみると良いと思います。
そして一番わかりやすい予防方法は予防接種。
ロタウイルスの予防接種について少し触れましょう。
ロタウイルスの予防接種
感染や重症化を予防する目的で、毒性をものすごく弱くしたウイルスを、ワクチンとして接種することができます。
感染する前に、体の中で抗体ができるため、もしも感染したとしても症状が軽くすんだり、かからなかったりします。
ロタウイルスにも予防接種があって、必ず受けなくてはならないとはされておらず、日本では任意となっています。
受けたい人は生後6週から24週の期間内に受けることができます。
ロタの任意の予防接種は受けるべきか論争
日本では、任意の予防接種を受けるか受けないかでよくママの中で議論があります。
- 副作用(副反応)があるから不安
- 認可されたばかりだから心配
- 費用負担がきつい
早い時期の予防接種のスケジューリングは、いくつもの他の都合との駆け引きにもなり、予防接種=注射というイメージも、痛い思いをたくさんさせるのは…と消極的になる原因の1つではあると思います。
これについてはご安心を。
ロタウイルスのワクチンは経口接種、つまり飲み薬です。
ゴクゴク飲ませなきゃならないわけではなく、スポイトでピュッと甘いシロップ入りワクチンを口の中に流し入れられるだけです。
まだバブバブしている、なんだかよくわかっていない子にとっては、「濃いのが口に広がった」くらいの感じ方ではないでしょうか。
だから、痛い思いをさせることへの不安は全く心配ありません。
そして、ここからよくご理解いただきたい。
副反応についてご心配な方へ。
ロタウイルスのワクチンで重篤な(入院するほどの)副反応が出たという報告は日本ではありません。
ワクチンは、安全に使用できることを厳しくチェックしたうえで使用していい許可をだしているのですからね!
もちろん軽い副反応は報告がありますよ。
日本で行った調査では、接種後30日間に報告された主な副反応は、
- ぐずり(3%)
- 下痢(5%)
- 咳・鼻水(3%)
- その他:発熱、食欲不振、おう吐など
こんなかんじでした。
また海外の調査で報告された副反応は、
- ぐずりや下痢(1~10%未満)
- 鼓腸(お腹がふくれること)
- 腹痛や皮膚炎(1%未満)
こんなものです。
当然受けるべきという考えの根拠
この程度の副反応のリスクが不安で、5歳までに100%全員がかかると言われ、罹った時の症状が辛い感染症の予防接種を「受けない」という選択は、私からするとちょっとありえない。
ちなみに、必ず受けなくてはならないBCGのワクチンについていうと、注射を打った後に出る副反応は、皮膚に出る症状が40%。
もちろん副反応の種類がちがうため一概には比較できませんが、
- 必ず感染した時の、症状がひどくて脱水症状を起こして重篤になるリスク
- わずか数パーセント程度の”重篤でない”副反応のリスク
2つのどちらのリスクを回避することが子どもにとって良いかは、いうまでもなく1でしょう?!
また費用についてですが、ワクチンは1人分で2万5千円くらいでしょうか。
高いと感じるかもしれませんが、住んでいる自治体で費用を助成してくれる制度があるところはあるので、チェックが必要です。
とはいえ、重篤化した時にかかる医療費や、回復するまでに自宅療養する必要が出た際の損害(仕事ができない、看病負担などなど)を考えると、やはり「受けない」選択肢はないでしょうと思います…
WHOでは、このリスク比較を考えたうえで、「定期接種にすべきだ」と各国に推奨しています。
日本は、「副反応が存在することそのものがNG」と考える傾向が強いため、ロタウイルスに限らず、全てのワクチンが定期接種になる時期が遅いです。
だから、先進国の予防接種状況と比べると、日本は遅れているといわれているのです。
ちなみに、2006 年以降にアメリカ・オーストラリア・ヨーロッパと中南米の 12 カ国でロタウイルスは定期予防接種になりました。
すると、ロタウイルスが原因の胃腸炎で入院する患者の数が減少したということです。
全世界でロタウイルスのワクチン接種率はまだ約23%程度。
発展途上国など、そもそも国でロタウイルスのワクチンが認可されていないところなどがこの接種率を引き下げてはいるものの、認可されている国で生活しているのであれば、任意だろうが「受けましょう」。
おわりに
日本人は、どうも健康被害のリスクを天秤にかけて優先度を決めるのが苦手、というか、元気な状態が延々にキープされることが当たり前で正義と思いすぎではないかと時々思います。
これはロタウイルスに限らず、インフルエンザも同様ですよね。
以前、インフルエンザにかかったけど軽症で済んだという記事を書きましたが、ワクチンを打っていてあの被害なんだから、受けていなかったらどうなっていたかとゾッとします。
逆に、数パーセントの軽い副反応程度を気にするほど、国のそもそもの健康水準が高く、衛生状態が良好であるという点では、賞賛ものなのかもしれませんけれど。
もしもワクチン接種でお悩みの方は、これを機に前向きになっていただけたらなと思います。
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