睡眠時無呼吸症候群をご存じですか?
寝ている時に呼吸が止まったり戻ったりを繰り返す病気のことです。
日中の眠気がひどくて生活に支障が出ている方はもしかしたら…
寝ている間のことなんて自分ではわからない、そのためなかなか顕在化してこない病気ですが、
放っておくと様々な疾患やトラブルのリスクが高くなってしまいます。
今回は、睡眠時無呼吸症候群と生活習慣病、交通事故とのこわ~い関連についてお話しします。
睡眠時無呼吸症候群の基礎知識
前述しましたが、睡眠時無呼吸症候群とは睡眠中に無呼吸を繰り返す病気のこと。
7時間の睡眠中に30回以上の無呼吸、または睡眠1時間あたりの無呼吸の回数が5回以上の病態で確定診断されます。
睡眠時無呼吸症候群は大きく「閉塞型」と「中枢型」にわかれます。
現代人の9割は閉塞型タイプで、舌や口蓋垂(のどちんこ)が空気の通り道である気道をふさいでしまうことが原因となり起こります。
そのため、「閉塞型」になりやすいタイプがこちら。
- 肥満の人
- 顎が小さい・狭い人
肥満の人は、首まわりに脂肪がついているため、気道がふさがりやすくなってしまいます。
また、顎が小さいまたは狭い人は、気道がもともと狭いため、ふさがりやすくなってしまいます。
つぎに「中枢型」の場合です。
こちらは、脳から呼吸指令が出なくなって無呼吸になる、いわゆる呼吸中枢の異常が原因のものです。
「閉塞型」と異なる点は、気道は開いたままなのに呼吸していない状態になるということ。
心臓の機能が低下した方が、30-40%の割合で中枢型の無呼吸がみられる傾向にあります。
どちらのタイプも、眠っている間の症状であることから、なかなか「疑い」をもって医療機関を訪れる方が増えません。
しかし、日中の眠気で日常生活に支障がでるといった場合は一度睡眠外来などで相談してみるとよいでしょう。
睡眠時無呼吸症候群の治療は、「早期発見・早期治療」がベスト!
その理由は、放っておくと10年後の死亡リスクが増加するだけでなく、合併症や交通事故のリスクをずっと抱えながら生活することになるからです。
睡眠時無呼吸症候群が招く合併症
睡眠時無呼吸症候群は、生活習慣病と密接にかかわっています。
研究結果からわかっている合併症の代表はこのようなかんじ。
- 薬剤抵抗性高血圧:83%
- 心不全(CHF):51%
- 心房細動(不整脈):49%
- 高血圧:37%
- 冠動脈疾患:31%
- 糖尿病:23%
- メタボリックシンドローム:57%
具体的な関連のメカニズムはわかっていないものもありますが、
特に睡眠時無呼吸症候群による「間欠的低酸素血症」と「睡眠の分断による交感神経の亢進」の2つが関与していることが考えられています。
簡単にいうと、無呼吸が繰り返し起こることによる酸素濃度の低下と、睡眠が途切れ途切れになることで自律神経が乱れることが関係しているのではないかということ。
では、高血圧・心臓病・脳卒中・糖尿病をとりあげ、それぞれの疾患別にみていきましょう。
睡眠時無呼吸症候群と高血圧
睡眠時無呼吸症候群と高血圧との関連は、米国で実施された大規模研究によって証明されました。
この研究では、709名を対象に4年後の高血圧発症リスクを調査しました。
その結果、睡眠時無呼吸症候群による高血圧の発症リスクは、一般の人の約1.4~2.9倍になるということがわかったのです。
特に、いくつかある高血圧症の中でも、「治療抵抗性高血圧」と呼ばれるものの合併のリスクが最も高いのが特徴です。
高血圧の治療は、薬物療法で血圧をコントロールするのが一般的です。
でもこの「治療抵抗性高血圧」は薬物療法が効かないため、治療が厄介なのです。
ただ、睡眠時無呼吸症候群によって発症した合併症であるため、睡眠時無呼吸症候群を治療できれば高血圧も改善します。
睡眠時無呼吸症候群と心臓病
心臓病とは心臓に関連する心疾患の総称。
日本では死因の第2位にランクインし続けるある意味メジャーな病気です。
心疾患の原因の2つが不整脈。
不整脈とは、通常一定のリズムで拍動する脈拍が、何等かの原因で不規則に乱れること。
不整脈が起こることで心疾患のリスクは跳ね上がります。
この不整脈の一種である「心房細動」が、睡眠時無呼吸症候群と関連があるのです。
研究結果によると、睡眠時無呼吸症候群を合併している人はそうでない人と比べて、心房細動の発現するリスクが2倍以上も高いことがわかりました。
また、重症であるほどリスクが高いことを証明した研究もあります。
睡眠時無呼吸症候群と脳卒中
心疾患に次いで国内で死亡原因の第3位となっているのが脳卒中。
これも睡眠時無呼吸症候群と関連があることがわかっています。
脳卒中は、脳の血管が詰まる脳梗塞や、血管が破れて出血したりする脳出血などの総称です。
脳血管の損傷により発作の後遺症として麻痺や言語障害が生じるケースもあり、寝たきりの原因疾患としても重要視されています。
研究結果からは、睡眠時無呼吸症候群の重症者は脳卒中・脳梗塞の発症リスクが健常人の3.3倍になることが報告されています。
グラフ中の、「AHI」とは「(無呼吸数+低呼吸数)÷睡眠時間」であらわされる、いわゆる睡眠時無呼吸症候群の重症度です。
右の「>36」は重症患者のことを指します。
脳卒中は発症するとその後の後遺症が生活環境を一気に変えてしまう場合が多いです。
四肢の麻痺、言語障害、認知機能の低下など…
脳卒中が原因で寝たきりになることもとても多く、問題視されています。
脳卒中の発症リスクを上げないためにも睡眠時無呼吸症候群は何としても予防ないし治療したいですね。
睡眠時無呼吸症候群と糖尿病
睡眠時無呼吸症候群と糖尿病に関連があることは研究で明らかにされています。
研究結果では、睡眠時無呼吸症候群の重症度が増すにつれて、糖尿病の合併割合が高くなることがわかりました。
メカニズムの解明までは至っていないのが現状ですが、
無呼吸時の低酸素状態と、呼吸が再開したときの正常な状態が交互になることが影響するのではないかと考えられています。
おわりに
このように、睡眠時無呼吸症候群はさまざまな生活習慣病との合併リスクが報告されています。
たとえば、生活習慣病の予防のために食事に気を使ったり、運動をがんばってみたりしても、
もしもあなたが睡眠時無呼吸症候群にかかっていて、それを治療せず放置していたら合併症の発症リスクは高いまま。
「眠い」も、そのほか”痛い”、”かゆい”、”だるい”などと同義で明らかな体の不調を表す状態です。
人生のうち、寝ている時間を除くと起きている時間は多くありません。
その貴重な時間を健康にすっきりと爽快な体で過ごしたいと私は思います。
これを機に、「眠いだけ」でも「もしかしたら」の疑いを持つよう心掛けてみてはいかがでしょうか。
参考:
- Logan et al. J. Hypertension 2001
- Javaheri et al. Circulation 1999
- Somers et al. Circulation 2004
- Sjostrom et al. Thorax 2003
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- Schafer et al. Cardiology 1999
- Elmasry et al. Intern Med 2001
- 西村 et al. J.Cardiol.2005
- Findley L, et al: Automobile accidents involving patients with obstructive sleep apnea. Am Rev Respir Dis, 1988
- Driving simulator performance in patients with sleep apnea. Am Rev Respir Dis, 1988
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