「通勤の電車内、暑いし混んでるしストレスだ~」
「大事な会議やプレゼンが控えていてストレスだ~」
「職場の人間関係が悪くてストレスだ~」
ストレスと感じるとき、私たちは頭痛がしたり気分が落ち込んだり緊張したり、いろんな症状が体に出ていると思います。
でもそれはそもそも何なんでしょう?
ストレスはメンタルヘルスという意味合いで使われることが多いものです。
でも実はそれだけではありません。
今回はストレスについての正しい知識と、最新の研究からわかったコレステロール・血圧との関連についてお話しします。
目次
ストレスの基本
まずは、そもそもストレスとはなんだということから。
私達がストレスを”これはストレスだ”と認識して感じる場面や、どんな症状が出るのか、ストレス社会と呼ばれる現代は統計上どんな状況になっているかといったことをまとめました。
ストレスとは
私たちが使う「ストレス」はメンタルヘルスの意味で使うことが多いように感じます。
でも、医学・物理学・人間科学・心理学などをはじめとする専門領域においてストレスとはストレス反応のこと。
ストレス反応とは、ストレッサーと呼ばれる「こころや体にかかる外部からの刺激」になんとか適応しようとして出てくる反応のことです。
もともとストレスという言葉の由来は、物理学で使われていたもの。
物体に圧力がかかって、へこんだり歪んだりした状態のことを表現するのに使っていました。
厚生労働省が紹介するウェブページでわかりやすく例えられていたので引用すると、
ストレスを風船にたとえてみると、風船を指で押さえる力をストレッサーと言い、ストレッサーによって風船が歪んだ状態をストレス反応と言います。
理解が深まりましたでしょうか。
ここではストレスを「私達のからだに影響するもの」として話しを進めますね。
さまざまなストレッサー
ストレッサーにはいくつか種類があります。
種類 | 特徴 |
---|---|
物理的ストレッサー | 暑い・寒い、騒音、混雑など |
化学的ストレッサー | シックハウス、酸素欠乏・過剰、一酸化炭素など |
心理・社会的ストレッサー | 人間関係・仕事上の問題、家庭の問題、満員電車、ライフイベントなど |
生理的ストレッサー | 病原微生物、疲労、空腹、睡眠不足など |
確かに、思い返してみると、全てのストレッサーによる不調は、ご経験がある方は多いのではないでしょうか。
私達が「ストレス」と思っているものはたいていが心理・社会的ストレッサーの場合が多いです。
それは、私達が生きるためには人との関わりがどこかに必ずありますし、生活するために仕事をして、その職場では仕事の量・質・待遇・人間関係があって、それらは大なり小なりストレッサーになることがわかっています。
なお、そのストレスが体に良いものか悪いものかはまた別の話しになりますが、この話はいったん置いておきましょう。
ご紹介したようなさまざまなストレッサーはストレス反応を引き起こしますが、体のストレス反応は3つにわけることができます。
ストレス反応 | 特徴 |
---|---|
心理面へのストレス反応 | イライラ・焦り・不安・気持ちの落ち込み・興味関心の低下など |
身体面へのストレス反応 | 関節の痛み・頭痛・肩こり・腰痛・目の疲れ・動悸・胃痛・食欲低下・下痢・便秘など |
行動面へのストレス反応 | お酒・たばこの量増加・仕事上のミス・事故など |
こういったストレス反応は、経験がない方のほうが少ないと思います。
ある意味では”よくあること”、”今だけだ”と軽視しがちなこれらのストレス反応。
数時間とか数日とか、そんな一時的なものであれば特に何も心配はありません。
でも、このようなストレス反応が長く続くことがもしあれば、ストレスが過剰にかかりすぎていて良くない状態かもしれません。
ストレスがかかりすぎるとメンタルの不調に直結し、身体の免疫機能が落ちたり身体機能も落ちたり、いろんな影響が出ます。
後ほど紹介しますが、小さなストレス反応を甘く見ず、気になる方は心療内科に足を運んでみてもいいですし、その前にセルフチェックをしてみることもおススメします。
年齢に応じた職業生活の中でのストレス
厚生労働省が整理した内容によると、労働者に限定したときに、年代ごとに感じるストレスは少しずつ変わっていきます。
ちょっと古いデータなので、また気づいた時に更新しようと思いますが、ここでは2012年に実施された厚生労働省の労働者健康状況調査を基にお話しします。
あくまでも同じ職場で仕事を続けるケースのお話しであることは最初に申し上げておきますね。
高校や大学を出て、仕事をし始めてから、仕事に慣れ管理職になり、定年を迎え~
と、一般的にはこんなように歩みを進めていきますよね。
年齢 | 歩み |
---|---|
20歳~30歳 | 職業生活の開始 |
30歳代 | 仕事&人間関係に慣れ、仕事量が増える。私生活の変化もあり |
40歳代 | 管理業務等の高度な仕事&上司と部下に板挟み |
50歳代 | 組織の中心 or not、周囲との差がつく。定年後が現実的に |
こんな歩みの中で、それぞれの年代ではこのようなストレスが起こりうる・よくあるといったことをがこちらです。
20歳前半から30歳
20歳前半から30歳にかけて、多くの労働者は職業生活を始めます。
初めての仕事で、職場の環境に慣れたり、仕事を覚えたり、職場の人々との関係を作ったり…それらはとてもストレスのかかること。
それまでストレスと思っていたことなんて大したことなかったと思えるような「ストレス」を自覚するようになります。
数年のうちは仕事との適性などにも悩む時期が続いたりもします。
30歳代
30歳代になると、仕事にも慣れてきて、人脈も広がり、職場内の人間関係にも慣れ、上手く折り合いをつけてやりくりができるようになります。
仕事も軌道に乗って、より大きな仕事を任されるようにもなります。
周囲から期待される一方で、業務量の多さそのものや、私生活の面でも結婚や子供ができたりと生活環境が一変する人もいて、それらがストレッサーとなります。
40歳代
そうこう悪戦苦闘するうちに40歳代に突入。
職場では、より難しい判断を強いられる、責任を伴う仕事を求められるようになり、管理職として部下の育成も担いつつ上司との関係維持にも努めなくてはならない、より人間関係のストレスに悩む人が多いようです。
50歳代
50歳を過ぎると、会社の中では中心的な立場に立つ人が増え、周囲から中心的な立ち位置を求められるようになります。
一方、同期・同世代の役職や会社での立ち位置に顕著な差が出てくるころ。
そんな環境におかれる人間関係も悩みが尽きないようです。
また、定年も近づくことから、その後の仕事や私生活の問題がよりリアルになります。
加齢とともに身体の不調も出てきたり、身内の病気や介護などにも直面する方もいて、それらがストレッサーとなります。
人によってストレッサーとなるものは違ってきますが、職業生活におけるストレッサーは似通っているものです。
そして、何歳になったってその時の年齢や立場によって相応のストレッサーがあるものだとご理解ください。
私もまだ40歳代以降のことはわかりませんし、大学を出て普通の会社勤めを続けて~といった経歴を辿ってきていないので、正直よくわかりません。
でも、例えば学生の頃は「合わない」「嫌い」と感じている現場だけがストレスと思っていたのが、それが仕事となると、仕事を上手にこなすためには苦手な人との関係も上手にやりくりすることが強いられるようになる。
同じ人間関係でもストレッサーの質が違ってきますよね。
きっとそういうことなんだろうと私は理解しています。
また、人それぞれのパーソナリティによって、同じストレッサーにさらされていても、それが全く影響しない人もいれば敏感に受け取る人もいます。
だから何歳だからとか役職者だからとか、そういうのは一概に断定することはできません。
でも、人の年齢や立場から、そんなストレッサーにさらされている年代なんだなーということがなんとなく想像がつくと思います。
そうすれば、ちょっと自分自身のことも一呼吸おいて冷静に見れるようになりますし、人のことも一歩引いてみることができますよ。
メンタルヘルスとストレスのの関連
さて、ここまでストレスとストレッサー、年齢ごとに感じるストレスが変わってくることなどをお話ししました。
私達の身体は、さまざまな種類のストレッサーによって刺激をうけ、それに応じるためにストレス反応を起こします。
でも、先に話したとおり、ストレッサーに長くさらされ続けて、それをストレスだと感じ続けることは、身体に良いことではありません。
ストレス反応が続けば、ストレッサーの種類に関わらず、それがメンタルヘルスの不調に直結します。
これには、人の身体の免疫機能が深くかかわっています。
どういうことかというと…
人はいつでも免疫機能のひとつである自律神経によって、身体の調子を整えています。
自律神経の役割は、活動モードと休息・回復モードのスイッチの入れ替え。
このスイッチは交感神経・副交感神経のバランスのことです。
活動している時間は常に何らかのストレッサーにさらされている状態です。
その状態の時はストレッサーをできるだけ軽く感じるように、ストレッサーによって疲労がピーク、眠くなるとスイッチを切り替えて休息・回復モードにチェンジ、できるだけ回復しやすいように調節するのです。
でも、ストレッサーに長くさらされ続けたり、一時でも重たいストレッサーを感じると、このスイッチの切り替えが上手にできなくなってしまいます。
これが上手くいかないということは、極端にいうと
- 休息したいときに眠たくならない
- 活動したい時に身体がだるい・元気が出ない
自律神経は、免疫細胞・免疫物質をコントロールする働きもあるため、必要な時に免疫物質が作れない、免疫細胞が機能しないという状態になってしまうのです。
身体がこんな状態になってしまうと、だんだんと活気が低下して、元気がなくなってきます。
睡眠不足の問題も相まって、どんどん負のループにハマり、イライラや不安感も感じるようになります。
そして気分が落ち込んだり、やる気が減退したり、いわゆる「うつ」の状態に近づいていくのです。
これが、ストレスによるメンタルヘルスの不調のメカニズムです。
もちろん、メンタルヘルスの不調だけでなく、ストレスは他の病気の原因にもなったりします。
メンタルヘルスのセルフチェック
そんなわけで、ストレスが原因となる最も多い「うつ」の症状をセルフチェックしてみましょう。
以下のような症状が2週間以上続く場合には、「うつ」が疑われます。
この中の項目が1つでも当てはまれば、専門家(精神科、心療内科)に早めに相談することをおすすめします。
- 気分の落ち込み、憂うつな気分
- 趣味などが楽しめない
- 体重の減少または増加、食欲の減少または増加
- 寝つきが悪い、夜中に目が覚める、朝早く目が覚めてしまう、どれだけ寝ても眠気がとれない
- 気持ちが焦るイライラしやすい
- 疲れやすい
- 価値のない人間だと思う、周りに対して申し訳なく思う
- 思考力や集中力が低下する、決断が難しい
- いっそのこと消えてなくなりたいと思う
なお、繰り返しになりますが、このような症状があっても数日で改善するようならまだセーフ。
ストレスはあっても、上手な発散のしかたを自分なりに行えている・または自然とストレス発散になるような生活環境にいるということになりますので、そこまで気にせずとも大丈夫です。
ストレスの現状
厚生労働省は5年に一度、労働者を対象とした「労働者健康状況調査」を行っていて、労働者の身体的・精神的な健康状態を記録しています。
最新の調査は2017年の結果。
それによると、現在の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は60.9%というとんでもない高い数値をたたき出しました。
なお、5年前の調査では58.0%でしたので、わずかですがストレス度アップといえますね。。。
また、強い不安・悩み・ストレスを感じる事柄の内容についてみてみると、
問題 | 割合 |
---|---|
職場の人間関係の問題 | 41.3%(前回調査:38.4%) |
仕事の質の問題 | 33.1%(前回調査:34.8%) |
仕事の量の問題 | 30.3%(前回調査:30.6%) |
会社の将来性の問題 | 22.8%(前回調査:22.7%) |
定年後の仕事・老後の問題 | 21.1%(前回調査:21.2%) |
仕事への適性の問題 | 20.3% (前回調査:22.5%) |
昇進・昇給の問題 | 18.9%(前回調査:21.2%) |
このようになりました。
やっぱりといいますか、人間関係の問題を感じている人が4割もいましたね。
また、仕事の質と量に問題を感じている人も3割を超えていました。
自分自身への不安という点では、会社の将来性や定年後の仕事・老後の問題なども20%前後と少なくない割合を記録しました。
ストレスと病気の関係性
ストレッサーにさらされることは、メンタルヘルスの不調だけでなく、他のいろいろな病気を引き起こすこともあります。
ストレスに関連する病気
ストレスに関連していると考えられている病気はたくさんありますが、そのうちよく知られている代表的なものはこちらです。
部位 | 主な症状 |
---|---|
呼吸器系 | 気管支喘息、過喚起症候群(かかんきしょうこうぐん) |
循環器系 | 本態性高血圧症、冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞) |
消化器系 | 胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、心因性嘔吐 |
内分泌・代謝系 | 単純性肥満症、糖尿病 |
神経・筋肉系 | 筋収縮性頭痛、痙性斜頚(けいせいしゃけい)、書痙(しょけい) |
皮膚科領域 | 慢性蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症 |
整形外科領域 | 慢性関節リウマチ、腰痛症 |
泌尿・生殖器系 | 夜尿症(やにょうしょう)、心因性インポテンス |
眼科領域 | 眼精疲労、本態性眼瞼痙攣(ほんたいせいがんけんけいれん) |
耳鼻咽喉科領域 | メニエール病 |
歯科・口腔外科領域 | 顎関節症(がくかんせつしょう) |
出典:厚生労働省 「心の耳 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」
これらの病気の名前は、聞きなれないものも多いと思いますが、病名は別に覚える必要はありません。
ストレスは、このようないろいろな器官の病気を起こす要因になるということを知っていただけるだけでけっこうです。
「ストレスが要因になる病気がある」ということを頭に入れておくことで、例えば何かの症状が出て病院に行ったとき、「最近ストレスが多くて」ということも、症状を説明する際に加えることができます。
そうすると医師の診断も的確に&スピーディーになり、もしかしたら不要な検査を免れるかもしれませんし、迅速な処置が可能になるかもしれません。
そしてもし、上記に該当する病気にかかってしまった場合は、「やっぱりか」と納得もいくことでしょう。
なお注意してほしいことが1点。
ここにあげた病気は、ストレスだけが原因ではありません。
ストレスがない状態でも、他の因子によって病気になることだってあります。
でも、ストレスが多いという事実があるならば、病気の治療手段として、そのストレスを軽減させるアプローチはとても有効です。
最新の研究からわかった騒音ストレスとコレステロール・血圧との関連
ここまで、ストレスの基本とストレッサー、病気との関連についてお話ししてきました。
とはいっても、病気との関連は、まだはっきりとした裏付けがないものもあります。
ここでご紹介するのは、職場内での騒音ストレスとコレステロール・血圧との関連について。
具体的には、騒音にさらされると、血圧やコレステロールの値を上昇させる可能性があるというもの。
今までわかってなかったの?!と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、これ2018年3月に公開された論文で明らかになったことなのです。
騒音は血圧を上げる
ストレスの基本のお話しで、騒音もストレッサーになることはお話ししましたよね。
騒音というと、身近なのが工事や建設作業現場での音。
騒音は近隣住民へのストレッサーになることから、作業時間が決められていたとしても苦情が絶えないとのこと。
でも実際に工具を持って騒音の間近で作業している労働者のストレスは想像以上です。
例えばチェーンソーや、道路をピストンによる打撃で固める工具なんかは、音と振動が健康被害を起こすことがはっきりとわかっています。
だから、作業者は1回工具を稼働させたら、連続して作業していい時間はわずか10分。
工具と作業内容によって、細かく「連続して作業していい時間は〇分で、1日計〇時間」というふうにルールが決められています。
休み休み作業しないと、作業者は、音による難聴や振動による振動障害になってしまうから。
工具の振動もストレッサーではありますが、ここでは騒音のみ取り上げましょう。
騒音による難聴をはじめとする健康被害は、もちろん労災がおります。
労災が認定された件数は記録されていて、こちらがその推移。
出典:労働安全衛生総合研究所「建設業労働者の健康障害予防のための追跡研究–騒音性難聴について–」
認定件数は、昭和62年に年間1,400件近くにのぼりました。
その後減少したものの、最近でも年間300件弱が報告されています。
さらに労災がおりないケースもあると考えると、健康被害の程度は何倍もになると思います。
このように、騒音は難聴を招くことはよく知られていて、産業衛生の分野では、その健康被害の程度と音の強さや持続時間の関連が細かく分析されています。
でも騒音がもたらす被害は難聴にとどまらず、循環器疾患も懸念されているのです。
それはある研究からわかったこと。
米国疾病予防管理センター(CDC)のEllen Kerns氏らの研究では、職場の騒音と高血圧、高コレステロール、冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症)または脳卒中との関係を調べました。
対象者は、2万2906人の労働者(男女比はほぼ半々、62%が白人、55%が大卒)。
その結果、12%が難聴で、24%に高血圧、28%にコレステロール値の上昇が認められました。
また、4%が冠動脈疾患または脳卒中を経験していたのです。
研究者の見解では、騒音はストレスを引き起こし、ストレスに対する自律神経や内分泌系の反応が、循環器疾患の危険因子である血圧や血中コレステロールの上昇を引き起こすのではないかとのこと。
ちなみに、この研究でいう「騒音」の基準はこちら。
これに当てはまる騒音の身近な具体例はこちらです。
- 工事・建設現場
- パチンコ店内
- ライブ会場
- 救急車や消防車のサイレンのすぐ近く
- 自動車のクラクション間際
- 飛行機のエンジンのそば
- 地下鉄の構内
- 電車音が鳴り響くガード下
- カラオケ店内
音の大きさは”音圧”で表され、単位は”db(デシベル)”。
1m先の人と大声で会話しなければならない周りの騒音は、だいたい70db(デシベル)以上になります。
デパート内とか、走っている自動車の中とか、病院の待合室程度の騒音が50~60db(デシベル)。
上にあげた騒音の具体例で最も大きい音が飛行機のエンジン音で、だいたい120db(デシベル)程度です。
このレベルの騒音に間近でさらされると、短時間でも聴力に障害がでます。
研究では、これらの騒音に該当するレベルの音圧に、1日4時間以上または週に数日以上あった人に、血圧・コレステロールの値の上昇がみられたと報告しているわけです。
意外とそんな環境にさらされていたという方、そんな環境とは無縁という方、それぞれだとは思います。
まあ「4時間以上」というのはそうないことかもしれませんが、いかがでしょうか。
高血圧・コレステロールリスクが増加
すでに結論をお話ししてしまいましたが改めて結果をわかりやすく。
まずは記述統計と呼ばれる単純に結果を集計したものから。
この研究で対象になった人のうち、25%が「騒音があった」と回答しました。
25%というと4人に1人。
けっこう騒音にさらされている人が多いんだと、まずここで驚いたのは私だけでしょうか…
さらに業種別にみてみると、騒音にさらされやすい順に、
- 鉱業:61%
- 建設業:51%
- 製造業:47%
- 公益事業:43%
といったお仕事に就かれている人でした。
このまま業種別にわけて解析したところ、難聴の人が一番少なかったのが金融業・保険業だったため、このグループをベースに比較しました。
すると難聴のリスクはこうなりました。
- 鉱業:2.50倍
- 公益事業:1.94倍
- 製造業:1.72倍
難聴のリスクは、キレイに、騒音レベルが上がるとともに高くなることがはっきりわかったのです。
こんどはコレステロール値について。
先ほどの基準にあわせて「騒音あり」のグループと「騒音なし」のグループで、高血圧・コレステロール・冠動脈疾患の患者の数を比べてみたところ、
- 高血圧:「騒音あり」は「騒音なし」の1.16倍の患者数
- コレステロール上昇者:「騒音あり」は「騒音なし」の1.10倍の割合
- 冠動脈疾患 or 脳卒中:「騒音あり」・「騒音なし」の患者の割合は同等
こんなふうになりました。
このように記述統計だけみても、騒音が高血圧やコレステロールの値上昇に関連しているのではないかということが予測できます。
ここまで推測できたところで、専門的な統計処理のもとで病気のリスクを解析すると、こうなりました。
こちらの表の読み方を簡単に説明しましょう。
タイトル通りですが、難聴・騒音環境の有無と各疾患のリスクの数値です。
この数値の単位は「●倍」。
出典:労働安全衛生総合研究所「建設業労働者の健康障害予防のための追跡研究–騒音性難聴について–」
たとえば、高血圧のリスクを取り上げると、騒音なし(騒音にさらされておらず)で難聴もない人を基準(1)にすると、
- 騒音ありの環境がこれまであって難聴もあるというグループは、基準グループと比較して1.35倍高血圧になりやすい
- 難聴にはなってないけど騒音ありの環境がこれまであったグループは、基準グループと比較して1.16倍高血圧になりやすい
- 騒音がない環境だったが難聴があるというグループは、基準グループと比較して1.35倍高血圧になりやすい
こんなふうに読み取ることができます。
ちなみに、この結果をそのまま読むと、「騒音」ではなく「難聴」が高血圧の原因なんじゃ…と解釈されてしまいます。
が、これは、そもそも高血圧と難聴は関連があることがわかっているということを前提にお考えください。
だから、ここで知ってほしいことは、難聴はもちろんだが、騒音が高血圧とコレステロール上昇のリスクを高めるということです。
なお、冠動脈疾患・脳卒中のリスクも数値的には上昇していたものの、統計学的に「上昇している」とは言えない結果だったとのこと。
表中の「*」印は、数字的にはリスクがあるっぽく見えますが、ここでは特に意味を持たない数字だよということです。
ただこの表の書き方は学術的には正しくなくて、専門誌を読む時に「*」をつける数値は、基本的に「統計的に意味があるもの」のみ。
対象の文献:Kerns E, et al. Am J Ind Med. 2018 Jun;61(6):477-491. doi: 10.1002/ajim.22833. Epub 2018 Mar 14.
おわりに
今回は、ストレスが高血圧とコレステロールの値悪化に関係するという論文を見つけたため、そもそもストレスとは?というところからご紹介しました。
ストレスとはマイナスに聞こえがちですが、良い意味での”パフォーマンスを最大限に発揮するような”ストレスもあります。
それはストレスの種類ではなく「程度」。
ストレスを克服する方法とか、ストレスをためない方法だとか、そんなテーマの本や雑誌は多くありますが、ストレスのかかり方は人それぞれです。
同じ環境や状況にいたって、人によっては過度なストレスの場合もあるし、ぜんぜん大丈夫な場合もある。
そして、ストレスの感じ方は、歳をとるとともに減ってくる(=慣れてくる)こともありますよね。
だから、その時々に応じた発散や改善のしかたを、それこそ一人ひとりが模索するほかないんだと思います。
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