毎年9月の後半になると行われる予防週間の1つに「結核予防週間」があります。
ほぼ毎年、9月24日から30日の間が結核予防週間になることが多いです。
「結核なんて昔の病気じゃ?」
「今はかかる人も少ないから気にすることないんじゃ?」
「身近に結核の人はいないし、危険なことがイマイチわからない」
そんなふうに思う方も多いと思います。
では、この機会に結核についての正しい知識を身につけましょう。
目次
結核は現代の病気
結核は、結核菌という細菌が原因となって発症する病気です。
人が初めて結核菌を吸い込むと、そのうちの10~15%の人が、その後1~2年以内に発病します。
その他の発病しない人も油断できません。
発病しない=結核にはならない
ではなく、体の中で結核菌が冬眠状態になっており、ずーっと体内に留まっているのです。
その結核菌はすぐには発病しなくとも、他の病気にかかったり、高齢になって身体の抵抗力が落ちたときに、潜んでいた菌が活動を始め、結核を発病してしまうことがあります。
発病は大体10~15%程度といわれていますが、決して低い数字ではないことがわかっていただけると思います。
ちなみに、現代ではよく耳にする「BCG予防接種」。
ご存じかとは思いますがこれは結核の予防ワクチンです。
乳幼児へは接種が義務付けられていますので、お子さんの生まれたご家庭では必ず摂取するようにしましょう。
昔は治療法がなかった
そんな結核、現在では予防のワクチンがあり、仮にかかっても抗生物質など対処療法が花王ですが、昔は治療法が全くありませんでした。
最近では、スタジオジブリの作品「風立ちぬ」で、ヒロインの菜穂子がかかって治療する場面が記憶に新しいでしょうか。
結核は、昔は大流行して、国民病とまで言われるほどでした。
映画の題材である戦前は、治療法がなく、キレイな空気を吸って肺を浄化する治療と呼べない治療しかありませんでした。
映画では、一度かかると感染し死亡率も高いため、山奥深くに「隔離」する意味合いでの、「療養所での治療」が取り上げられています。
このように、当時は大変恐れられた病気ですが、ワクチンがある現代では安心というわけでは決してありません。
日本は結核の「中まん延国」
結核は、日本では、1日に約50人、年間約18,000人が新たに発症し、そのうち約2,000人の方が亡くなる現代も続く病です。
日本の結核罹患率は、欧米先進国に比べまだまだ多く、世界の中では依然「中まん延国」とされています。
次の表は、2014年に公開された結核罹患率のデータです。
出展:厚生労働省2014、WHO2014
欧米に比べるとだいぶ遅れているのがわかりますよね。
「低まん延国」になるには今後10年以上、100万人あたり1人以下の「制圧」までには50年以上かかるだろうという予測もあります。
なぜ日本で結核がなくならないのか
日本は中まん延国といいますが、その原因はなんでしょうか。
それはだいたい以下の理由が考えられます。
- 症状が風邪に似ている
- 結核菌がしぶといから
- 感染力が強いから
- 居住環境の近代化
ひとつひとつみてみましょうか。
症状が風邪に似ている
これは日本だからというわけではありませんが、結核の初期症状は風邪の諸症状によく似ています。
- 発熱
- 咳やたんが止まらない
- 倦怠感
- 息苦しさ、息切れ
- 胸に痛みを感じる
- 食欲不振
- 血痰
このような症状はすべて結核の症状ですが、これはちょっと風邪ひいちゃったなくらいの認識にとどまっていまうのも無理はありません。
この症状が2週間以上続く場合は結核の可能性が出てきます。
結核菌はしぶとい
結核菌は体内で生き続けます。
そして、一度感染すると体内から完全になくすことがとても難しい。
肺胞に定着した結核菌は白血球に食べられますが、そのまま死ぬことはなく、逆に増殖するというしぶとさです。
感染力のつよさ
結核菌は「空気感染」という感染経路で人から人へ感染します。
空気感染とは、咳やくしゃみをすることで空気中に菌が撒き散らされ、空中でふわふわ浮いている菌を他の人が吸い込むことによって感染すること。
空気中いる見えない結核菌を吸い込むだけで感染してしまう、空気感染とは最も感染力の強い感染経路といえます。
居住環境の近代化
近年、国内で結核が問題となるのは学校や病院、事業所などの人が密集する場所での集団感染。
これは、もちろん「集団」という感染理由が最も説明がつきますが、近代はサッシの建物が増えるなど、居住環境の気密性も高まっていることもあげられます。
換気も十分されなくなってきたため、感染しやすい環境になっていることも考えられます。
結核の治療と予防ワクチンと健康診断
結核は予防接種の前にかかっている場合もあれば、成人してから気づく場合、高齢になってからということもあります。
対策と対処法とをきちんと知っておくことが大事です。
結核治療は化学療法で
結核は、今は化学療法により完治する病気ですが、きちんと服薬しないと、治療が困難な多剤耐性結核になってしまうこともあります。
かかってしまっても焦らず、かかりつけの病院できちんと治療しましょう。
服薬する薬はだいたいこんなものがあげられますよ。
出典:公益財団法人結核予防会
結核菌の治療は、ある程度の期間、内服によって菌を死滅させないとぶり返してしまいます。
また、内服中に、結核菌は薬に慣れて耐性できてしまうため、通常は2種類以上の薬を同時に使うのが鉄則です。
最新の方式はリファンピシン、イソニアジドという2種類をベースにして、合計6カ月間服薬するのが主流です。
BCG予防接種で抗体を作る
また、前述しましたが、乳幼児へは必ずBCGの予防接種を受けさせましょう。
たくさんポチポチの跡ができますが、今は傷が残りにくいようになっていますし、できるだけ早めに受診したいものです。
ちなみに、BCGを接種したからといって100%結核を防げるわけではありませんのでご注意を。
BCGは、結核の重症化を防ぐワクチンです。
結核の毒性をものすごく弱くした結核菌を接種することで抗体を作るのです。
そうすることで、軽い結核のような反応を起こさせ、そのあと結核菌がもしも侵入した時に備えて免疫をつけておくのがねらい。
ちなみに、BCGの結核予防効果は10~10数年。
成人の結核に対する予防効果は小児よりも低いとされており、特に高齢の方は要注意です。
定期健診を受診して早期発見を
繰り返しになりますが、結核は完全に予防できるわけではありません。
毎年の健康診断を必ず受診して、早期発見できることが一番。
重症化する前に治療に入れますし、ほかの人への感染も防げますよね。
「でも結核の健診ってなに?」
実は知らない方、おなじみ「レントゲン」が結核の検査です。
大事な検査ですので、面倒くさがらず必ず受診しましょう。
おわりに
いかがでしたか。
結核について少しご理解いただけましたでしょうか。
ちなみに、結核になりやすい危険因子としては、下記のようなものがあげられています。
- 糖尿病
- 悪性腫瘍の合併(悪性リンパ腫など)
- 人工透析
- 免疫抑制療法(副腎皮質ステロイド、サイクロスポリン、レミケードなどの使用)
- 胃切除後
- 塵肺
- HIV感染
当てはまる方は、おそらくかかりつけの病院等で治療中している方が多いと思いますので、病院の先生はリスクをよく知っていると思いますが、ご自身も知っておくことで早めの危機管理ができますよね。
今回は結核予防週間にちなんで、結核についてご紹介しました。
これで健康診断を受診することに大切な意味があること、少しわかっていただけると嬉しいです。
私は、結核については、ご紹介した「風立ちぬ」の映画で取り上げられたことに大変刺激を受けたのを覚えています。
社会病とまで言われ、当時は隔離措置などで問題になった結核、「もののけ姫」のハンセン病を取り上げた事例に引き続き、宮崎駿監督すごいな~と感心しました。
病の歴史をさかのぼると、当時の人々の迷信や古い時代の言い伝えなどともこんにちはできて、今となっては笑い話になるようなことが信じられていたりして、それはそれでとてもおもしろいですよ。
ま、それらの分野は専門外なので、気が向いた方ぜひ調べてみてはいかがでしょうか。
参考
- 厚生労働省:結核について
- 厚生労働省:平成27年結核登録者情報調査年報集計結果>
- 公益財団法人結核予防会:結核予防週間
- 厚生労働省:平成26年結核登録者情報調査年報集計結果(概況)
- 全日本民医連「特集2 肺結核は過去の病気? 日本はいまだ「中蔓延国」」
- 日本臨床検査薬協会
- 慶応義塾大学病院「医療・健康情報サイト」
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