出典:厚生労働省「平成28年度「子ども予防接種週間」の実施について」
2017年3月1日~7日までの1週間は子どもの予防接種週間です。
厚生労働省・日本医師会より、「4月からの入園・入学に備えて、 必要な予防接種をすませ、病気を未然に防ぎましょう!」ということで通知が出ています。
お子さんには、「1歳になったらMRワクチンをプレゼント」とか「小学校入学前にMRワクチン2回目を」とよくいわれます。
また、まだまだ猛威をふるっている今シーズンのインフルエンザについて、予防接種に急いだご家庭も多いのではないでしょうか。
これらの予防接種、日本でも定期接種が徐々に定まりつつありますが、実は日本の予防接種事情は世界と比べて最低レベルなのです。
今回は、日本と海外の予防接種事情についてお話ししましょう。
日本では無料接種できるワクチンが多くない
お子さんがいらっしゃる方は目にすることも多いこの予防接種スケジュール表。
「こんなに受けなきゃいけないの?!」と驚いたころが懐かしいものですが。
小さくて見づらいよという方は、厚生労働省の公式サイトよりご覧ください。
定期接種と任意接種
予防接種には「定期接種」と「任意接種」の2種類あります。
定期接種とは、国が接種を勧奨しているワクチンで、接種する時期や対象者を設定したうえで国の責任の下で接種されるもの。
これらは予防接種法で定められていて接種が”強く推奨”されています。
一方、任意接種とは、予防接種や定期接種の年齢枠から外れての接種ですので、つまるところ”どっちでもいい”接種です。
そして知らない方も多いと思いますが、この定期と任意は国によって違います。
結論から申し上げると、日本は任意接種が異常なほど多い国です。
任意接種はつまり、自分で判断してお金を払って受けるということです。
海外では定期接種で無料で受けられるものの日本では任意接種のワクチンの代表が「おたふくかぜ」と「ロタウイルス」。
費用はおたふくが1回5,000円~7,000円程度、ロタはワクチンの種類がメーカーによって2種類ありますが、平均して1回1万円程度。
それぞれ、2回接種またはロタの場合は2回か3回の接種が必要で、決して安くはないお値段ですよね。
当然、接種率や認知度もそれに比例する形で定期接種と任意接種で分断されます。
定期接種と任意接種の予防接種割合
こちらは、2011 年 7~12 月にかけて、高槻市に在住する 1 歳 6 ヶ月健診を受診する子ども 1,477 人の予防接種状況について調査した研究結果です。
まずは定期接種のワクチンから見ていきましょう。
出典:津田侑子.日本における小児任意予防接種の認知度および接種率と接種行動に影響する要因の検討、日本公衆衛生学会総会抄録集71、p461
BCGはご存じ結核の予防ワクチンのこと。
詳しくはこちらの記事もご参考に↓
DPTは、ジフテリア・百日咳・破傷風(Diphtheria、Pertussis、Tetanus)の三種混合ワクチン。
なお、三種混合は2012年に廃止されて、今はこれにポリオが加わって、四種混合「DPT-IPV」と表記されます。
MRは麻疹と風疹の混合ワクチンです。
それぞれ「知っている」「接種した」割合を見てみると、日本脳炎以外のワクチンは全て100%近くの接種率です。
日本脳炎については、2005年にワクチン接種による副反応が問題になり、2009年までの期間、接種の推奨が中止されたため、多くの方が接種しない事態になりました。
ちなみにこの時の副反応は医学的に解析したところ、ワクチン接種によるものではないとのこと。
この時に接種を見合わせた方で1995年4月2日生まれ~2007年4月1日生まれの方は、特例措置が適用され、今からでも日本脳炎のワクチン接種が可能です。
ワクチンの安全性は十分に確認されていますので、母子手帳を見直して、条件に当てはまる場合は接種しましょう。
では次に、任意接種の接種割合をみてみましょう。
出典:津田侑子.日本における小児任意予防接種の認知度および接種率と接種行動に影響する要因の検討、日本公衆衛生学会総会抄録集71、p461
一目瞭然ですが、任意で有料というだけでこんなにも接種率が低下してしまうのです。
ではなぜ任意接種なのでしょうか。
任意接種にする理由は
それは、副反応による重篤者が出て問題になったからです。
日本人はどうにも完璧主義で、0か100でないとだめなのでしょうか。
重篤な1件のために、定期接種にせず、そのため防げなかった感染による重篤者が増えてしまうわけです。
任意なんだから自己責任というのは役人の責任逃れで、他の先進諸国に倣って集団感染が問題になる感染症・予防効果の高いワクチンは定期接種にするべきだと私は思います。
任意接種・定期接種の海外との比較については後ほど述べますが、もう少しわかりやすく、任意接種で「接種しない」選択をすることがどういうことなのかをご説明しますと…
- ワクチンを接種して副反応が報告された割合は、最も副反応報告の多いヒブワクチンで、100万接種あたり675件
- 年間の交通事故の発生率は全人口分のおよそ8.8%(平成26年統計)つまりおよそ0.09%
それぞれ、「たったの」とは言えませんし、重篤なケースも0ではないのですが、ワクチンを接種しない選択をするということは、交通事故が起こるかもしれないから全く外出しないといっても言い過ぎなレベルで、現実的ではない選択といえるのです。
任意接種数の国際比較
繰り返しになりますが、日本は予防接種後進国です。
近年で、国内で受けられるワクチンの種類がようやく先進国に追いついてきたのが現状で、先も述べましたように、すべてが定期接種ではありません。
他の先進国では、予防接種は「受けるのが当たり前・全て無料」が一般的です。
子どもは予防接種三昧で、特に1歳までのお子さんがいるご家庭は病院に通い詰めなのではないでしょうか。
全てのワクチンを接種すると、回数でいうと1歳で20回以上になるのですからね。
とっても大変なので、ワクチンの種類によって「同時接種」を推奨していたり、上手なスケジューリングが鍵になるのです。
そしてこれがワールドスタンダード。
厚生労働省は(ようやく)日本でもいずれはすべて定期接種にしようという方針を打ち出しています。
公衆衛生の最先端であるWHO(世界保健機関)では、(とっくの昔に)どんなに貧しい国でも国の定期接種に入れて、無料で接種して国民を守るように指示しています。
また、おたふくかぜと水痘(みずぼうそう)ワクチンも先進国では無料化することが望ましいと勧告しているのです。
日本での定期接種への(カメの)あゆみはこちらのとおり。
- 2008年12月からヒブワクチン使用可能に
- 2010年2月から小児肺炎球菌ワクチン使用可能に
- 2013年からヒブ・小児肺炎球菌が定期接種に
- 2016年からB型肝炎が定期接種に
- 2014年10月から水痘ワクチンが定期接種に
- おたふくかぜは定期化の時期が未定
- 被害が多いインフルエンザワクチンも任意 ※米国では定期接種
これが日本の現状です。
最近まで一体何してたのか?!と疑問になりますよね。
多種混合ワクチン・多種同時接種で効率的な海外
日本では最近4種混合ワクチンが出てきました。
4つも同時に接種できるなんて、回数が減って楽になると思いきや、海外ではなんと6種混合ワクチンが存在するのです。
6種混合ワクチンを実施しているのは欧州。
またアメリカでは、6種同時接種を生後2か月の未熟児でも接種してしまいます。
日本人は「それは危ないし非常識」と思うかもしれませんが、健康被害がないことは証明されているので全く問題ないのです。
アメリカ・ドイツそれぞれの同時接種・混合ワクチンの例です。
アメリカ:生後2か月
- 三種混合(ジフテリア+破傷風+百日せき)
- ヒブ(ヒブ感染症)
- 小児用肺炎球菌(肺炎球菌感染症)
- 不活化ポリオ(ポリオ)
- B型肝炎
- ロタウイルス:経口
ドイツ:生後3か月
- 6種混合(ジフテリア+破傷風+百日せき+不活化ポリオ+ヒブ+B型肝炎)
- 小児用肺炎球菌(肺炎球菌感染症)
同時接種や混合ワクチンを用いた方が、子どもにとっても、接種に付き添う保護者にとっても、負担が軽くてすみます。
日本でも同時接種を併用していますが、アメリカでいう5本も注射を同時にというのは奨められたことがありません。
それは、任意接種と定期接種とが混在しており、日本の接種時期のスタンダードも異なるからです。
日本の予防接種のルールはお役人さんが決めていて、医学的根拠の基で医療を提供したい医療関係者の意図とは別になかなか整備が進まないのが現状なのです。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
予防接種週間に入るにあたり、日本の予防接種事情について、今回は「任意接種と定期接種」に注目してみました。
その他にも、ワクチン接種の方法も日本は皮下注射がスタンダードだが海外では筋肉注射が当たり前といったことや、ワクチンの接種時期についても日本はびっくりするほど細かくルールがあります。
それらについてはまた次回に。
感染症の種類やワクチンについてはこちらの記事もご参考にどうぞ。
コメントを残す